研究領域 | 過渡的複合体が関わる生命現象の統合的理解-生理的準安定状態を捉える新技術- |
研究課題/領域番号 |
24121726
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉田 有治 独立行政法人理化学研究所, 杉田理論分子科学研究室, 主任研究員 (80311190)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 自由エネルギー計算 / Tom20複合体 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアTom20の分子認識機構に関しては、X線結晶構造解析や核磁気共鳴(NMR)などの実験的研究から、これとは異なる複数の結合様式を持つ分子認識機構が神田大輔教授(九州大学)らによって提案されている。このモデルでは、Tom20が認識するプレ配列に含まれる3つの疎水性アミノ酸残基が、Tom20に存在する2つの結合サイトを認識するため、エネルギー的には準安定な複数の結合構造が存在し、その結合構造間を遷移している。しかし、このモデルはX線結晶構造とNMR緩和データをもとに提案されており、実際にその構造間の遷移を見る事は実験的には難しい。 本研究では、マイクロ秒からミリ秒に相当する分子動力学計算を実行することにより、この時間範囲でのダイナミクスを計算した。1本の分子動力学計算でミリ秒のダイナミクスを計算することは分子動力学計算専用機を用いる以外に困難であるため、レプリカ交換分子動力学計算法などの拡張アンサンブル法を用いて実効でミリ秒に相当するシミュレーションを行った。その結果、実験的に得られたA-pose、Y-pose、M-poseが溶液中でも安定な複合体として得られること、それぞれの状態の相対的な安定性を占める自由エネルギー変化を見積もることに成功した。また、自由エネルギー地形からA-pose, M-pose, Y-poseへと遷移する構造変化の経路を見積もり、構造転移の途中に存在する自由エネルギー障壁が溶液中では十分に熱揺らぎで乗り越えられるものであることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績に書いたように既に、Tom20複合体に関するレプリカ交換分子動力学計算は終了し、結晶構造を含む安定な構造に関する自由エネルギーを見積もることができた。研究当初の課題であった「結晶解析で得られた複合体は溶液中でも実際に安定な構造をとり得るか?」というという問いに関しては答えが得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
この研究に関する第一論文は今年に入ってJ. Phys. Chem. Bに掲載された。その査読プロセスにおいて、査読者からなされた質問は、安定構造間の自由エネルギー障壁は殿くらいであるかという問いである。実際、レプリカ交換法では安定構造を探索することは比較的用意であるが、遷移状態の構造を精度良く求めることは難しい。今回得られた自由エネルギー差が定量的にはまだ改善しうるものかもしれない。 そこで、今後の研究として、今回見積もられた構造変化の経路にそった自由エネルギー積分を行い、遷移状態をより正確に見積もることを目指す。そのために、String法やNEB法などを我々が開発中の分子動力学計算プログラムGENESISに組み込み、Tom20複合体の系に応用する。
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