研究領域 | 現代文明の基層としての古代西アジア文明―文明の衝突論を克服するために― |
研究課題/領域番号 |
25101501
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 准教授 (90324392)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 放射性炭素年代 / 骨 / 炭化物 / 試料調製 / アミノ酸ラセミ化 |
研究概要 |
イラン・アルセンジャンTang-e Sikan洞窟遺跡から採取した炭化物および動物骨試料に対し,主に以下の4点について研究を推進した。 (1) トレンチB3の4層から採取した炭化物の14C年代決定:14Cを含まない炭化物(阿蘇-3噴火の際の木質炭化物)を用いて,試料調製を含めたトータルのバックグラウンド値を正確に見積もることにより,4層の炭化物の高精度14C年代決定をめざした。その結果,4層の年代は41,900ー40,600 calBPであり,2層,3層と同じ年代をもつこと,6層以下はほぼ14C測定限界の年代をもつことが明らかになった。この結果は,本研究課題にとって非常に重要な成果である。結果をEA-AMS-5国際学会で公表した。 (2) ABOx-SC法による炭化物試料前処理:(1)の炭化物試料の中には,保存状態が悪い試料の損失を避けるため,酸-アルカリ-酸(ABA)試料前処理の際,0.1M NaOH溶液(通常は1.0M)のアルカリ処理にとどめたものがある。これらの試料の14C年代値の信頼性を確認するため,効果的に外来有機物が除去可能であるとされる酸-アルカリ-湿式酸化-段階加熱(ABOx-SC)法を立ち上げた。年代値が既知の炭化物試料に本手法を用いて14C年代測定を行い,ABOx-SC法の有効性を確認した。本結果は来年度の研究推進につながる有意義な結果である。 (3) 限外ろ過法の確立:限外ろ過法を用いた骨ゼラチンの高精度・高確度な14C年代測定法の確立に努め,結果を国際誌3報他に公表した。 (4) 動物骨試料のゼラチン抽出:動物骨試料に対し、脱灰時の塩酸の濃度を低くし(~0.1M),アルカリ処理を短時間にして,骨の本質成分の損失を最大限抑えつつゼラチン抽出を行った。しかし,ゼラチン収率は非常に低く(0.1%以下),骨試料に有機成分がほとんど残存していないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,骨の年代決定法としてアミノ酸ラセミ化年代法を提案し,限外ろ過法を用いた骨ゼラチンの高精度・高確度な14C年代値と組み合わせることによって、ラセミ化速度を正確に算出することにより,5万年より古い骨の正確なアミノ酸ラセミ化年代決定をめざしたものであるが,イラン・アルセンジャンTang-e Sikan洞窟遺跡から採取した動物骨試料においては,有機成分がほとんど残存していないことが明らかになった。つまり,アミノ酸ラセミ化年代法は,本対象骨試料に対しては有効でないことが明らかになり,骨の無機成分による年代測定を行う必要性が生じた。そのための準備に時間を費やしたものの,現在,準備はほぼ完了している。また,新たに試みる予定のU-Th法に関しては,論文等からの情報収集を終え,実段階に入りつつある。 一方,炭化物の年代測定に関しても,新たな試料前処理法(ABOx-SC法)を立ち上げ,すでに手法の信頼性の確認を終え,実試料の分析に取りかかることができる状況にあり,来年度前半には測定を終了できる見込みである。 以上のことから,Tang-e Sikan洞窟遺跡のシークエンスに正確な年代を付与するという本研究課題の研究目的に対し,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,今年度に得られた結果を踏まえ,主に以下の3点について研究を推進していき,Tang-e Sikan洞窟遺跡のシークエンスに正確な年代を付与することをめざす。 (1) ABOx-SC法による炭化物の14C年代決定:昨年度に立ち上げたABOx-SC法をTang-e Sikan遺跡の各層から得られた炭化物に適用して14C年代決定を行い,ABA法による年代値と比較しつつ,各層に正確な14C年代を付与する。 (2) 動物骨試料の炭酸ヒドロキシアパタイトの14C年代測定:骨試料に有機成分が残存していないことが明らかになったため,骨の無機成分である炭酸ヒドロキシアパタイトを用いて14C年代測定を行う。まず,埋没中に骨に入り込んだ外来炭素を適切な化学処理によって除去した後,段階加熱を行なうことにより,骨試料から炭酸ヒドロキシアパタイトのみを分離抽出し,信頼性のある14C年代測定が可能かどうかを確認する。可能性が見られた場合は,本手法を用いて,Tang-e Sikan遺跡から採取した骨試料の14C年代測定を行う。 (3) (2)の手法は14C測定限界の年代より古い骨に対しては使えない。そこで,U-Th年代測定法を用いて,骨の年代決定を試みる。まず,骨表面を酸リーチングした後,レーザーアブレーションICP質量分析計(LA-ICP-MS)により,骨の中心から外側に向けて1列になるようにレーザーを照射していき,各測定点のU濃度,230Th/238U,234U/238Uを測定する。測定結果をもとに,骨試料のU濃度および見かけのU-Th年代の分布図を作成し,提唱されているいくつかの"骨のU吸収・拡散モデル"を用いて年代を換算する。LA-ICP-MSによる分析は,京都大学大学院理学研究科の平田岳史教授に協力していただき推進していく予定である。 以上の研究結果を投稿論文にまとめ,研究総括を行う。
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