飽きは繰り返される刺激や作業によって、行為・状況の意義を見出せなくなったときに感じる特有の負の感情である。この飽き感情への対処戦略として、我々は外的状況あるいは内的状況(自分の精神状態)を変える行動を取る。飽き対処、特に内的戦略は飽きの状況に関する知覚の再構築に重要であり、創造性との関係が推測される。本研究では2種類の飽き対処戦略の神経基盤と、これと創造性との関係を明らかにすることを目的に、平成25年度に健常被験者46名を対象とした機能的MRI実験を実施した。実験ではMRI中で写真や絵画などの視覚刺激を鑑賞する課題と、その刺激に対する飽き感情の程度を評価する課題を交互に繰り返させた。最高度の飽き評価によって新しい刺激を要求する選択をした場合を外的戦略とした。この後に50%の確率でまた同じ刺激が提示される場合があり、その際に内的戦略が用いられるとした。今年度はこの実験データについて様々な角度から解析を行った。特に、条件間の脳活動差と、AUT(代替用途)テストで計測した各被験者の創造性得点との関係に着目した。両対処戦略に関する脳活動が腹内側前頭前皮質を始めとする皮質内側領域に見られた。また、内的戦略における後帯状皮質(PCC)及び右側角回(AG)の活動は被験者の創造性得点と正相関を示した。抽出されたPCCとAGの領域は、脳の進化過程で末期、すなわちヒトで急激に発達する数少ない領域に含まれる。この事実は、内的戦略がヒトの創造性に何らかの役割を果たす可能性を支持するものと考えられ。ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの交替劇の真相理解に重要な参考知見となる。
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