研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
25102503
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 宗治 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70431492)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | BODIPY / フタロシアニン / 光物性 / 複合材料・物性 / ナノ材料 |
研究概要 |
本研究では研究代表者が先行研究で合成した①ピロロピロールアザBODIPYおよび本研究において合成する②TTF縮環フタロシアニンケイ素錯体の二つの分子系を元素ブロックとして、諸物性を精査した後に、それぞれ置換基部分および軸配位子の反応性による高分子への展開を目的としている。 研究初年度は、①では先行研究で得られた知見を基に、吸収・蛍光波長の長波長化を試み、分子骨格のヘテロ芳香環の変換とピロロピロール側の置換基を調整することで、近赤外領域に吸収・蛍光を示す元素ブロックの創出に成功した。さらにこの元素ブロックはこの領域としては10%を越える非常に高い量子収率で発光することが分かった。 また①で合成した元素ブロックはπ共役系が広がった構造であるので、電子材料としての展開を考え、領域内共同研究により有機薄膜太陽電池特性の評価を行い、デバイス作成条件の検討により、初材料としてはまずまずの変換効率を示すことを明らかにし、今後の応用展開が期待される結果を得た。 ②については目的の元素ブロックであるTTFが縮環したフタロシアニンの合成に成功し、軸配位子に嵩高い置換基を導入することで、初めて結晶構造解析に成功した。また軸配位子の反応性を利用することで、8量体までの積層型の多量体の生成を質量分析で確認し、実際に5量体までを単離し、NMRで同定を行った。 続いて、単量体の電気化学測定より、酸化は4電子酸化過程が2過程見られたことから、それぞれのTTFユニットが1電子ずつ酸化されたテトラカチオン体、2電子ずつ酸化されたオクタカチオン体へと変換していることを明らかにした。さらに二量体の電気化学測定から、1電子酸化過程が2過程に分裂して観測され、また電解吸収スペクトルで近赤外領域にブロードな吸収が見られたことから、TTFユニットが部分酸化により積層方向で混合原子価状態をとっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究初年度は元素ブロックの合成とその物性解明および年度後半から高分子化を、当初研究改革では予定していた。研究実績で述べたように、①および②の両方の研究テーマにおいて、元素ブロックの合成および物性解明は問題なく行うことができた。特に②ではTTFおよびフタロシアニンの高い平面性から、溶解性が低く、分子の同定が難しいことも予想されたが、当初研究計画で考慮したとおり、ケイ素上の軸配位子に嵩高い置換基を導入することで、予想以上の溶解性が得られ、NMR、X線結晶構造解析で、この分子系としては初めて同定することができた。これによりTTF縮環したフタロシアニンの元素ブロックとしての可能性が大いに広がったと言える。②においては、積層方向への多量化にも成功しており、多量体の物性解明まで研究を進めることができた。 一方、①では元素ブロックの特性として捉えている吸収・蛍光特性をさらに引き出す目的で、近赤外化を試み、可視領域から近赤外領域の広い範囲における吸収・蛍光波長制御を達成している。これは当初研究計画以上の成果であり、この元素ブロックを高分子化する際のモノマーユニットしての選択肢を増やすことができたと言える。さらに高分子化する際に必要な、ピロロピロール側の置換基の末端にブロモ基を有する分子を合成し、カップリング反応により2量化および3量化に成功しており、カップリング反応における良好な反応性を確認している。また有機薄膜太陽電池への応用研究も領域内共同研究で進めており、良好な結果が得られ、今後の分子設計や高分子化の指針についても一定の知見を得ている。 以上から、元素ブロックとしての特性の解明と高分子化に加えて、発展研究も開始出来ていることから、今年度の本研究の成果は当初研究計画以上であり、大いに進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
①で合成する高分子材料は最終的には有機薄膜太陽電池および発光素子としての応用研究への展開を想定している。領域内共同研究で得られた知見から、可視領域の吸収特性の改善とLUMOのエネルギー準位の保持が必要であることが分かっている。今年度後半に得られた2量体や3量体では紫外可視近赤外領域に広く吸収を示しており、吸収特性の改善は期待できるので、これらの分子がドナーとして十分な性能を有しているか明らかにするために、基礎物性の解明を行う。また吸収特性の改善にはドナー性の高い分子との共重合化も有効であると考えており、これについても併せて検討を行う。 ①の元素ブロックの発光素子としての利用を考える上で重要なのはリン光発光の実現である。これについては白金やイリジウム錯体の合成にすでに着手しており、今年度も継続して検討を行う。またこれまで得られている分子は固体発光を示さないが、ポリマー鎖中に分散することで、固体発光特性の改善を期待しており、検討を行う。 ②ではオリゴマーは合成できていることから、今後条件検討を行い、ポリマー化を行う。ある程度の長さの高分子において、部分的に酸化することで、配列した構造で集合体を形成すると考えられるので、その条件検討を行い、伝導特性などの物性測定へと展開する。 以上、①および②の両方のテーマにおいて、元素ブロックの基礎物性とその反応性については知見が十分に得られているので、今年度は主に応用目的に適した高分子材料への展開を主に進める。
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