医薬品や農薬をはじめとして、様々な分野で光学活性キラル化合物に対する需要が急速に高まっている。それに応えるためには、高選択的不斉触媒、高分子不斉反応場の開発、高効率合成法、反応の自動化、および反応に応じたテイラーメード型不斉触媒の開発が重要である。酵素に見られるような高度な特異性と選択性を備えた触媒機能を有する高性能分子触媒の開発には、低分子化合物では限界がある。合成高分子でありながら酵素に匹敵あるいは凌駕する触媒性能を得るために精密なキラル高分子の設計が必須である。本研究では不斉触媒機能を有するキラル元素ブロックを高分子化する技術について検討した。 ジフェニルエチレンジアミン(DPEN)モノスルホンアミド‐遷移金属錯体はケトンまたはイミンの水素移動型不斉還元の触媒として有効である。我々は、イリジウム錯体が、特に環状スルホンイミンの水素移動型不斉還元に有効であることを見出した。この反応はキラルアミン誘導体合成に有用であり、医薬品等の合成中間体合成法としても注目されている。このキラルイリジウム錯体の高分子化の手法として、高分子の側鎖に固定化する方法と、高分子主鎖に組込む方法の2通りについて検討を行った。いずれの場合も高分子不斉触媒として高活性示すことが分かった。側鎖型の場合、触媒サイトは高分子中にランダムに配置されるが、触媒サイト以外に不斉反応場として有効な第四級アンモニウム塩構造を導入することで高分子触媒の高活性化を達成できた。主鎖組込み型では、触媒サイトが規則的に高分子中に配置され、高分子中のミクロ反応場が効果的に使われると、低分子触媒を上回る不斉選択性を実現することができた。特に医薬品分野では、遷移金属の流出を最小限にくい止めることのできる高分子触媒として有望である。
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