研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
25102521
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 一生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90435660)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ハイブリッド / 光応答 |
研究概要 |
本研究では、機能性シリカ材料を元素ブロックとして設定し、特に光刺激に応答する機能性ハイブリッド材料の創成を行った。これまでに発光性ハイブリッドや光パターニングの報告は数多くの例があるが、光触媒や光エネルギー変換材料となるハイブリッド材料の報告例は少ない。本研究では、機能性シリカや、シリカの立方体構造を有するかご型シルセスキオキサン(POSS)を元素ブロックとして捉え、UV光からマイクロ波に至るまでの広範な波長領域の光=電磁波を対象に、刺激応答性の元素ブロック高分子材料の作成を行った。特にUV、可視光、マイクロ波という異なる波長領域の電磁波に感応する三つの光機能材料作成を通し、現在の環境問題における喫緊のニーズを満たす物質を創出する。 UV光照射により自動分解するシリカ材料の創出と、それらを用いた有機-無機ハイブリッド材料を開発を行った。光照射前後における耐熱性、機械的強度、色素内包による漏えいの度合い、濁度について評価を行った。応用例として、汎用高分子+ガラス+自動分解シリカのハイブリッド材料を作成し、汎用高分子の回収量の比較を行った。 窒化炭素はメタルフリーで様々な光触媒機能を有する。この窒化炭素に類似した構造を有するアザフェナレン含有水溶性POSSネットワーク高分子の合成を行った。得られた物質について重合度や平均分子量等を計測した。色素の水溶液にネットワークポリマーを分散させ、可視光照射による色素分解量を定量することで、汚染物質除去能を評価した。 イオン液体成分を被膜したシリカナノ微粒子の合成法を確立する検討を行った。カチオン・アニオンの化学構造、溶媒変更により発熱機構を明らかにするための知見を得た。応用研究として、酵素の熱失活誘導についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目的の材料の合成を行った。通常のハイブリッド材料で使われる汎用性高分子とガラス成分に加え、光駆動型自動分解性高分子が含まれる。この自動分解性高分子は、ハイブリッド中ではシリカの網目構造に組込まれる。UV光照射により逐次的に主鎖の分解が起こる。最終的にシリカ部位が崩壊する。現在、自動分解性高分子の合成を完了し、UV光照射により単体で分解することを確認している。これらの成果より、自動分解性高分子を含む有機-無機ハイブリッド作成のための反応条件検索を行った。ゾルゲル法における温度、触媒、アルコキシシランの種類を調節することで、均一なハイブリッド材料の作成を行った。得られた材料は光吸収測定より透明度を算出することと、SEM観察で表面状態を調た。また、熱分解温度の測定からシリカの網目構造形成の度合いを評価した。酢酸など弱酸性条件下、迅速加熱が可能な電子レンジを用い、自動分解性高分子の分解を減らすことを検討した。材料内部での自動分解性高分子の挙動は分解生成物の蛍光発光より算出可能であった。 光照射により分解を引き起こし、反応後の材料の性質を調べた。TGAにより熱分解温度を算出するとともに、UVにより内部の高分子の挙動を調べた。また、水に浸すことで、内部の分子の漏出量を計った。特に、PETの再利用では添加物の分離が問題となるが、本研究で簡便に高分子の再回収ができることを示せれば、ハイブリッド化がPETの高機能化の有力な選択肢の一つになると期待されることから、検討を行った。自己分解高分子の分解挙動は確認済みであるので、問題点はシリカネットワークの崩壊が起ったことから、光照射前後で大きな変化がない場合、温水や弱塩基性水溶液につけるなどシリカの分解も引き起こされる条件下で処理を行い、光照射による分解誘導の効果を高めることについて検討した。
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今後の研究の推進方策 |
高分子合成のために重合性官能基を有するアザフェナレン誘導体をモノマーとして合成し、ネットワーク化を図る。カルボキシル基含有アザフェナレンとアミノPOSSを用い、ネットワーク高分子を合成する。現在、ジブロモ体の合成までは確立している。高分子合成後の同定は、水系によるGPCによる高分子量体生成の確認、NMRによる架橋度の算出、動的光散乱による粒径分布の測定により行う。TGAにおいて化合物の熱安定性も調べる。十分に水溶性が確保できない場合、架橋度を調節し、水溶性の向上を図る。また、光吸収能の向上のために、フルオレンなどの芳香族ユニットとの複合化を図る。 水中の汚染物質の除去能について検討を行う。指標となる色素を共存させておき、光を照射する。時間経過に伴う溶液中の色素の残存量を紫外可視吸収スペクトルから定量することで、触媒能の評価を行う。次に、水の分解能について調べる。上記で得られた高分子を水に溶かし、光照射を行う。反応後の水の残量や、水素と酸素の発生量を測定することで光触媒能の評価を行う。色素自体のネットワーク内部への浸透の差がみかけの反応率に影響すると予想される。最初はPOSSに吸着しやすい芳香族炭化水素系の色素の挙動について調べる。 熱に弱い酵素の失活を誘導することを示し、温熱治療への応用の可能性を実証する。グルタチオン還元酵素(GRE)は細胞に対する有害物質を分解する機構に関わっている。GREは腫瘍細胞に多く発現しており、これらのGREを分解できれば腫瘍細胞の薬剤耐性を除去することで、わずかな量の抗がん剤でも薬効発現が可能となると考えられる。GRE溶液にマイクロ波照射を行い、修飾ナノ微粒子の有無による酵素活性の定量を行う。酵素の微粒子への吸着が問題となってくるが、カウンターアニオンの変更やアルブミンなどのタンパクによる前処理により酵素の非特異的吸着を防止する。
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