シリカ化合物の中で、かご型シルセスキオキサン(POSS)は (RSiO1.5)8で表され、T8と呼ばれる一辺が0.3ナノメートルのシリカの立方体構造を中心に、各頂点に有機官能基を持つ物質の総称である。剛直な立方体核から放射線状に側鎖が配置されており、ネットワークポリマーやデンドリマーなど、多分岐型高分子材料構築のビルディングブロックとして有用である。また、官能基Rに修飾を加えることで多種多様な機能の付与が可能である。これらの修飾により、溶媒や他の媒質中において高い分散性を付与することが可能であることから、POSSを分子フィラーとした複合材料の作成が容易となる。以上の利点から、POSSは様々な機能性材料構築に応用が図られている。特に、これまでの研究では剛直性を利用して高分子の耐熱性向上や機械的特性付与に用いられてきた。また、極性基であるシラノール基を持たないため、低誘電材料や表面の疎水化などへの応用も進んでいる。本研究では、POSSを元素ブロックとして高分子材料に組み込むことで高機能材料の創出を目指した。具体的には、まずPOSSをフィラーとして用い、プラスチックの屈折率制御を行った。特に、POSSは樹脂の耐熱性向上に効果が高いことから、高屈折率化と樹脂の機械的特性を両立するための分子フィラーの設計に関する研究を進めた。次に、POSSフィラーによるイオン液体の高性能化を行った。まず、オクタカルボキシPOSSをフィラーとして種々の塩中に添加し、物性変化を調べた。その結果、オクタカルボキシPOSS添加により、汎用イオン液体の融点の低下がみられた。一方、POSSを含まない側鎖のみの化合物では、融点の低下はみられなかった。この結果は、オクタカルボキシPOSS添加により、定義上イオン液体と呼べない塩でも液体化できたことを示している。
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