研究実績の概要 |
これまでに、金属錯体と配位子を元素ブロックとして用いて、高分子材料を集積させる新しい高分子接着システムを創製してきた。ホスト-ゲスト相互作用やボロン酸の水酸基含有化合物との錯体形成、金属錯体と生体高分子との複合体形成を利用して、高分子ヒドロゲルを自己組織化させることができた。本年度は、塩化ルテニウム (RuCl3・nH2O) あるいは塩化ロジウムを含む水溶液を浸漬したポリアクリルアミド (pAAm) ゲルが、金属塩化物を含まない pAAmゲル(以降「fresh pAAmゲル」と記載)と接着する現象を見出した 。強い配位部位を持たない pAAmが、金属塩の存在により接着した例は現在までになく、興味深い現象である。 塩化ルテニウムあるいは塩化ロジウム水溶液に浸漬したpAAmゲルとfresh pAAmゲルは強く接着し、水中で振とうしても解離しなかった。一方、この2種類の金属塩化物以外の金属塩水溶液を用いた系では、pAAmゲルが接着するような現象は見られなかった。また、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)ゲルあるいはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲルを用いた系では、塩化ルテニウムや塩化ロジウム存在下でも接着は見られなかった。以上のことから、この接着が pAAm、塩化ルテニウムあるいは塩化ロジウムを用いた系において特異的な現象であることが示唆された。接着したゲルの接着強度を、引張試験により定量的に評価した。その結果、ゲルを浸漬させる塩化ルテニウム水溶液の濃度増大に応じて、引張接着力の増強が見られた。尿素 (水素結合阻害剤) 過剰条件下で、PAAmとRuCl3との凝集体形成が抑制されたことから、水素結合が高分子ヒドロゲルの接着において重要な役割を果たしていると考えられる。
|