π共役分子の優れた光化学特性・電気化学特性を固体中で十分に発揮するためには、π共役分子の会合制御が重要である。本研究では、ホウ素原子と窒素原子間に働くルイス酸とルイス塩基との相互作用(BN配位結合)と電子不足なπ共役分子と電子豊富なπ共役分子間に働く電荷移動相互作用(CT相互作用)、の協同的な分子間相互作用を活用した「分子集積化技術の開拓」を行い、特に発光性有機包接結晶の創製を目的とした。有機固体発光材料の創製は、波長変換材料・照明材料・表示材料・有機EL材料等に用いられる基本材料であり、その開発研究は極めて重要な位置づけにある。 本年度は、ピロメリト酸誘導体・トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン・芳香族溶媒から構成される有機包接結晶が、ゲストとして取り込まれる芳香族分子の種類に応じて固体発光特性を生じることを見出した。メタキシレンやパラキシレン等の芳香族炭化水素をゲストとして用いた際には、発光寿命が数ナノ秒から数十ナノ秒の蛍光発光であったが、ヨウ素や臭素等の重原子を含む芳香族分子を用いた際には、発光寿命が数十マイクロ秒から数ミリ秒のリン光発光が観測された。前者はピロメリト酸誘導体と芳香族分子間に働く電荷移動錯体からの蛍光発光であり、後者はピロメリト酸誘導体およびピロメリト酸誘導体と芳香族分子間に働く電荷移動錯体の励起三重項からの発光であると考えている。また条件検討の結果、発光色に関しては水色、緑色、黄色を達成し、それぞれ絶対発光量子収率が40%を超える強発光性を示すことのできる材料の設計指針を得ることができた。
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