研究領域 | 元素ブロック高分子材料の創出 |
研究課題/領域番号 |
25102535
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 敬二 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20325509)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | POSS / 末端基 / 界面濃縮 / 分子鎖熱運動性 |
研究概要 |
高分子界面における構造および物性は学術的な興味だけでなく、機能発現と関連して注目を集めている。しかしながら、界面では材料内部と比較してエネルギー状態が異なるため、その構造ならびに物性を三次元バルク試料で蓄積されてきた高分子科学に基づき、予測・理解することは困難である。 高分子材料最外領域におけるガラス転移温度(Tg)はバルク値と比較して低下している。空気界面領域における分子鎖熱運動性の活性化の要因については、議論が継続しているが、分子鎖末端の濃縮による過剰な自由体積がその一つであることは間違いない。また、高分子がその非溶媒と接触すると、最外層の分子鎖は一部溶解し、膨潤することも明らかとなっている。その結果、非溶媒界面における高分子鎖の力学物性はバルクのそれと著しく異なる。したがって、一般的な方法で調製する高分子の気体界面・液体界面における熱・力学特性はバルク特性と比較して不安定である。燃料電池やバイオチップ等、用途に応じては、気体や液体界面においても材料内部と同様、あるいは、それ以上の熱・力学特性が望まれる。したがって、グリーン・ライフイノベーションを実現する材料創製が模索されている中、熱・力学的に安定な高分子界面を創製可能な分子設計法を確立することは極めて重要である。 本研究では、精密重合技術に基づき、分子鎖末端にかご型シルセスキオキサン(POSS)を導入し、POSS部を濃縮させることで熱・力学的に安定な高分子界面を創製することを目的とした。通常の合成高分子では、空気界面、あるいは、液体界面では弾性率やTgはバルク値と比較して低下する。一方、POSSブロック導入高分子では、POSS部の界面濃縮が達成できれば、界面近傍の弾性率やTgはバルク値と比較して上昇する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリメタクリル酸メチルの両末端にPOSSブロックを導入したPPMPの薄膜を調製し、POSS末端の濃度分布を評価した。その結果、膜最外層にはPOSS末端が濃縮することを見出している。PPMPおよびポリメタクリル酸メチル(PMMA)膜に対するマウス線維芽細胞L929の接着性を評価した。PMMA膜と比較しPPMP膜上では、細胞数が少なく増殖速度が低下した。また、細胞接着面積の評価から、PPMP膜上では比較的伸展性が低くなることが分かった。これらの結果は、POSSユニットによる膜最外層の分子鎖凝集状態および熱運動性の変化が細胞接着性に影響を与えることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
1)POSSブロック導入高分子の界面構造・物性評価:界面におけるPOSSブロックの組成はX線光電子分光(XPS)測定、膜厚方向の分布は動的二次イオン質量分析(DSIMS)および中性子反射率(NR)測定に基づき評価する。また、界面領域における熱・力学物性は申請者が得意とする走査フォース顕微鏡(SFM)を用いて評価する。界面構造・物性の評価を水中で行う。高真空を要するXPSおよびDSIMS測定に関しては、試料を液中浸漬後凍結乾燥し、測定を行う。また、摩擦力も試料を液中に浸漬したまま測定する。以上より、POSSブロック導入高分子の界面構造・物性が明らかとなる。 2)POSSブロック導入高分子の一次構造制御に基づく界面物性の最適化:線状高分子では分子量およびPOSSブロック数を、多分岐高分子では分子量を変数として熱・力学的に安定な高分子界面を模索する。POSSブロックの置換基についてもアルキル基やフルオロアルキル基等、数種の試料で検討する。 3)POSSブロック導入高分子の細胞接着能評価:細胞としては、ヒト由来繊維芽細胞、マウス由来L細胞などを用いる。標準的な条件下において細胞培養を行い、細胞初期接着率、および長時間培養における細胞伸展挙動を位相差顕微鏡観察に基づき評価する。この際、培地は標準的な血清含有培地に加え、無血清培地についても検討する。細胞骨格維持に寄与するタンパク質の発現量および局在は、免疫染色もしくは特異的分子をプローブに用いた蛍光標識の後、蛍光顕微鏡観察に基づき評価する。細胞増殖率および細胞毒性については、細胞周期に応じた特異遺伝子の増幅試験およびMTTアッセイに基づき検討する。細胞挙動を示す各種パラメータと、高分子界面の構造・物性との相関について明らかにする。得られた知見を試料合成にフィードバックし、界面熱・力学物性の安定化、ひいては細胞活性の制御を試みる。
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