研究概要 |
近年注目されている巨大ひずみ加工法では,バルク状の金属材料においても結晶粒径をナノレベルに微細化することが可能になる.本研究では,バルクナノメタルの特異な超伝導物性とその機構を解明することを目的とし,巨視的物性(磁化,電気抵抗率)をはじめとして磁気光学法や走査プローブ顕微鏡などの局所プローブによるマルチスケール物性測定を行う.このことにより,微細結晶粒や体積分率が増大した結晶粒界によって発現する新奇超伝導物性を開拓しその発現機構を解明する. 平成25年度に行った主な研究成果を以下に示す: 高圧ねじり加工によって作製された金属元素超伝導体V(純度99.9%) の磁化特性をSQUID磁束計により測定し,臨界温度Tcを決定した.HPT加工は6GPaのもと室温で回転数 (N = 0, 1/8, 1/4, 1/2, 1, 2, 5, 10, 20) で行った.SQUIDによる磁化測定の結果,VではN = 1/8, 1/4, 1/2の場合にHPT加工前よりも臨界温度が上昇するが,上昇の割合はTc/ Tc ~ 0.6%と小さな値を示した.また,N > 1では加工前の臨界温度より低くなった.一方,NbではVとは異なる傾向を示し,加工後の臨界温度は加工前よりも常に高く増加率も大きかった(Tc/Tc ~1.3%).これらの結果は,同じ条件でHPT加工を行った場合でも金属元素の種類によってその振る舞いが異なることを示している.一般的に,超伝導体では格子欠陥などの乱れが導入されると臨界温度は低下する傾向にある.しかし,“クリーンな”ナノスケール超伝導体では電子の閉じ込め効果により粒内の状態密度が増加し臨界温度が上昇すると考えられている.実際のバルクナノメタルにおける超伝導臨界温度はこれらの効果の競合によって支配されていると考えられる.
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