本研究の目的は、電着法を応用して母相粒径よりもさらに微細で、酸化物粒子を均一分散させたバルクナノメタルを作製し、強度や変形挙動に及ぼす影響、さらには熱的安定性向上への効果を明らかにすることを目的とする。公募第1期はナノスケールWO3粒子を懸濁させた電解液を使用した電着法によりナノ結晶Niの作製をおこなった。第2期は加水分解によるナノスケール粒子の合成と電着を組み合わせた新しい手法による粒子分散を試みている。 公募班第1期では、電解液にWO3粒子を懸濁させた電析共析法により、粒径が約40nmの母相ナノ結晶ニッケル中に10nm程度のWO3粒子が分散したナノ粒子分散ナノ結晶ニッケルを合成することに成功した。電解ニッケル中に取り込まれる過程で破砕してさらに結晶構造が単斜晶から正方晶へ変化する興味深い現象が確認された。しかし、分散粒子の凝集や偏在も一部に観察され、強度や熱的安定性への効果も限定的であった。 そこで、本年度は新しい方法として、電解液にNa2WO4と溶解させて、WO42-として電離したイオンをpHや電極電位を制御して下記の反応によりWO3粒子を電解ニッケル中に析出させて微細なWO3粒子が分散したナノ結晶Niを作製することに成功した。Na2WO4の加水分解反応によりWO3が形成した点を確認するために、本年度は予備試験として、電解開始前に一定時間放置したのちに水分を蒸発させて、残渣を回収して、X線回折、電子顕微鏡による観察を行った。その結果、WO3粒子が合成することを確認した。しかも、これらの粒子は凝集されずに分散していた。さらに電着材の組織を確認した結果、結晶粒径が約20nmの母相ニッケル組織中に同一レベルのWO3粒子が分散していることが電子顕微鏡とEDSにより確認できた。また、結晶粒径が同レベルのナノ結晶ニッケルに比較してさらに硬度上昇と熱的安定性の向上が確認できた。
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