2015年度の前半は、それに先立つ3月に発表されたBICEP2による原始重力波の発見報告に翻弄され、その対応に追われたため、本研究計画のような長期的な視野に立った基礎研究はなかなか進めることができなかった。しかしながら、この結果はダストによる混淆が主因であることが判明した後は、落ち着きを取り戻し、本来の研究に取り組み、成果を挙げることができた。 まずは前年度から取り組んできた非ガウスノイズの存在下での尤度関数の定式化を進め、重力波信号の弱い、現実的な場合について局所的最善統計量(locally optimal statistic)をさまざまな非ガウスノイズの場合について定式化した。具体的には、非ガウス性が弱い場合にはガウス分布の周りのEdgeworth展開、強い場合には新しく開発したGaussian Mapping法によって局所的最善統計量を与えた。その結果をStudentのt-分布に適用したところ、非ガウス性が弱い場合は双方とも、強い場合は後者のみが真の分布とよく一致することを見いだした。この結果は日本学術会議の英文誌に招待論文として掲載された。 さらに、非ガウス性を活用してノイズと信号を分離する方法となり得る独立成分分析の研究を進め、異なるノイズの非線型相関によってノイズの周波数変調が起こる場合の定式化まで成功した。独立成分分析はこれまで線型変換の場合に限って定式化されていたので、これは現実的応用への重要な一歩となった。 以上の結果を現実的なデータ解析に応用することが、次の課題であったが、LIGOの公開データからはノイズの環境信号が得られなかったため、本学のTOBA実験のデータを用いるべく、80TBのストレージを導入した。しかし、実験の進捗が遅れたため、データが得られたのが3月にずれ込んだ。現在鋭意解析を開始しているところである。
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