本研究課題では2018年頃に本格化する重力波直接観測に備え、ブラックホール―中性子星合体のモデル化を数値相対論の枠組みで行った。特に中性子星の普遍的な性質である磁場に焦点を充て、数値相対論ー磁気流体の高解像度シミュレーションを実行した。 数値コストの観点から、潮汐破壊が起こる興味深いモデルを選定した。具体的にはAkmal-Pandhalipande-Ravenhall状態方程式、ブラックホール―中性子星質量比4、中性子星質量1.35太陽質量、ブラックホール無次元スピン0.75と設定した。潮汐破壊によって形成される降着円盤に高い解像度を割り当てる為、多層格子法を実装した数値コードを開発した。シミュレーションの結果、潮汐破壊により形成された降着円盤内部で磁気回転不安定性による磁場増幅が起こり、磁気乱流が発達する事が分かった。乱流粘性が生成され、角運動量輸送の結果円盤内部での質量降着率が上昇する。この降着エネルギーは円盤内縁付近で乱流粘性によって熱化される。円盤表面付近の流体要素はこの熱圧力により動径方向へ加速され、やがて重力的束縛から逃れる。上記の機構により降着円盤から円盤風が駆動する事が判明した。円盤風が駆動されると円盤上空に漏斗型の壁が形成され、また磁力線の凍結により動径方向に揃った磁場が出来る為、円盤表面付近の磁気圧が強くなる。ブラックホールの回転軸上にはもともと物質が存在しない為、漏斗型の壁からの圧力及び磁気圧によりブラックホール上空に物質が押し込まれ、やがて磁気圏を形成する。このようにショートガンマ線バーストにとって物理的に都合の良い状況が自然に形成される事が分かった。Blandford-Znajek光度を評価したところ、エネルギーの小さなショートガンマ線バーストを説明できる程度の値になることが判明した。結果をまとめた論文を投稿中である。
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