研究実績の概要 |
本研究では、トポロジカル絶縁体表面状態のスピントロニクス応用を目指し、強磁性体を接合したトポロジカル絶縁体において、スピントロニクスの観点からトポロジカル絶縁体表面状態のスピン流物理の研究を行った。 スピンポンピングと呼ばれる強磁性共鳴を利用した手法を用いると、強磁性体から表面状態にスピンを注入することができる。表面状態では平衡状態で逆向きスピンが互いに反対方向に流れているため電流は生じないが、スピンを外から注入しそのバランスを崩してやると、注入したスピンの向きと注入方向の両方に垂直な方向(ホール方向)に電流が生じることが期待される。 本研究では、バルクキャリアを補償したトポロジカル絶縁体(Bi,Sb)2(Te,Se)3およびSnドープしたBi2Te2Seと、強磁性金属であるNi-Fe合金の接合系を用いて、スピン注入実験を行った。上記で説明した通り、スピン注入誘起電圧信号は、注入するスピンの向きに依存するため、磁場に対して奇の対称性をもつことが期待される。我々は、バルクキャリアを補償したトポロジカル絶縁体試料において、表面状態の輸送現象が主要となる低温で磁場に対して奇の信号が見られることを示した。幾つかの対照実験により、この信号がトポロジカル絶縁体表面状態におけるスピン注入誘起電圧信号であることを実証した[Y. Shiomi, et al., Phys. Rev. Lett. 113, 196601 (2014).]。この成果は海外からも広く注目を集め、磁性分野で最も大きな国際会議の1つであるMMM会議で招待講演を行った(ホノルル、2014年11月6日発表)。この結果を更に発展させるべく、フェリ磁性絶縁体Y3Fe5O12を用いたトポロジカル絶縁体へのスピン注入実験も本新学術領域の若手相互滞在プログラムを利用して行った。
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