トポロジカル凝縮相における量子交差相関現象

2013 年度 実績報告書

• 研究領域: 対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象
• 研究課題/領域番号: 25103703
• 研究種目: 新学術領域研究(研究領域提案型)
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 野村 健太郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00455776)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2015-03-31
• キーワード: トポロジカル絶縁体 / トポロジカル超伝導体 / 量子交差相関応答

研究概要

トポロジカル絶縁体およびトポロジカル超伝導体における量子交差相関の微視的理論を構築し、関連する諸現象の予測・解明を行った。通常の絶縁体では、例えば磁場を印加すると磁化が発生するが、近年、電場による磁化の発生、あるいは磁場による電気分極の発生といった交差相関現象が注目を集めている。トポロジカル絶縁体では電気的・磁気的自由度が「量子化」現象として交差結合し、トポロジカル不変量と関係づけられる。
トポロジカル状態においては、電磁応答の他に、顕著な量子交差相関応答として、温度勾配などの熱的摂動と角運動量などの力学的回転の間の交差相関の可能性を検証した。このような熱的応答は直感的には、エッジ近傍に熱的に発生したエネルギー流が系の周りを循環することによって生成される軌道角運動量の効果として理解できる。その微視的一般理論を構成した。
電子相関が重要な役割を持つ反強磁性状態における電磁応答の解析を行った。スピン軌道相互作用のある電子系では、ハーフフィルドの半金属状態においても特異な電磁交差相関応答が存在する。微視的な電子ハミルトニアンから出発し、低エネルギーにおける有効ハミルトニアンを導出し、これがディラック模型となることを明らかにした。さらにフェルミオン場を汎関数積分する事で電磁応答を記述する作用積分を導いた。これによると反強磁性相においてアクシオン電磁理論が適用できる事がわかった。
トポロジカル絶縁体における電子間クーロン相互作用の効果を、格子ゲージ理論で定式化された強結合展開を用いて解析した。長距離クーロン相互作用が大きい極限でもトポロジカル絶縁体相は安定に存在する事を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の目標は、トポロジカル超伝導体の熱伝導特性を明らかにすることであった。特にトポロジカル超伝導体の表面状態はマヨラナフェルミオンによって記述される事が知られており、マヨラナフェルミオンの熱伝導率を微視的模型に基づき計算した。時間反転対称性を有する系では、乱れの起源として、超伝導秩序変数の空間的乱れがある。この描像に基づきマヨラナフェルミオンの速度を空間的に変調する模型を導いて、さらに熱伝導率を自己無道着法によって計算した。時間反転対称性が破れた場合には、表面のマヨラナフェルミオンは有限のギャップ有する。このときホール熱伝導度を計算し、表面における異常量子熱ホール効果が実現しうる事を理論的に明らかにした。またこの量子化熱ホール伝導率は、バルクのトポロジカル不変量と一致することを明らかにした。

今後の研究の推進方策

今後は量子交差相関応答の理論を、ワイル半金属などのギャップレス系へ拡張する。また量子交差相関応答に関する乱れと相互作用の効果を調べる。乱れたトポロジカル超伝導体の有効理論を、場の理論的アプローチと数値シュミレーションの両方から研究する。数値シュミレーションでは、転送行列法とリカーシブグリーン関数法を用いて、熱伝導率や状態密度の解析を行う。

研究成果

• [雑誌論文] Disorder effects on thermal transport on the surface of topological superconductors by the self-consistent Born approximation (2014)
  • 著者名/発表者名: Ryota Nakai, Kentaro Nomura
  • 雑誌名: Phys. Rev. B 巻: 89 ページ: 64503 1-9
  • DOI: 10.1103/PhysRevB.89.064503
  • 査読あり
• [雑誌論文] Strong Coupling Expansion in a Correlated Three-Dimensional Topological Insulator (2013)
  • 著者名/発表者名: Akihiko Sekine, Takashi Z. Nakano, Yasufumi Araki, Kentaro Nomura
  • 雑誌名: Phys. Rev. B 巻: 87 ページ: 165142 1-9
  • DOI: 10.1103/PhysRevB.87.165142
  • 査読あり
• [雑誌論文] Electromagnetic and thermal responses in topological matter: topological terms, quantum anomalies and D-branes (2013)
  • 著者名/発表者名: Akira Furusaki, Naoto Nagaosa, Kentaro Nomura, Shinsei Ryu, Tadashi Takayanagi
  • 雑誌名: Comptes Rendus Physique 巻: 14 ページ: 871 883
  • DOI: 10.1016/j.crhy.2013.03.002
  • 査読あり
• [雑誌論文] Zeeman-type spin splitting controlled by an electric field (2013)
  • 著者名/発表者名: H. Yuan, M. S. Baharamy, K. Morimoto, S. Wu, K. Nomura, B.-J. Yang, H. Shimotani, R. Suzuki, M. Toh, C. Kloc, X. Xu R. Arita, N. Nagaosa, Y, Iwasa H. Yuan, M. S. Baharamy, K. Morimoto, S. Wu, K. Nomura, B.-J. Yang, H. Shimotani, R. Suzuki, M. Toh, C. Kloc, X. Xu R. Arita, N. Nagaosa, Y, Iwasa
  • 雑誌名: Nature Physics 巻: 9 ページ: 563 569
  • DOI: 10.1038/nphys2691
  • 査読あり
• [学会発表] ゼロギャップ半導体におけるワイル半金属とスピン物性 (2014)
  • 著者名/発表者名: 野村健太郎
  • 学会等名: 日本物理学会
  • 発表場所: 東海大学
  • 年月日: 20140327-20140330
  • 招待講演