高圧下の有機導体α-(BEDT-TTF)2I3は、質量ゼロの2次元ディラック電子系が弱い層間結合で積層した多層ディラック電子系であり、容易にn=0の基底ランダウ準位のみが占有される強磁場量子極限が実現する。更に強磁場領域での層間磁気抵抗の振舞は、ヘリカルエッジ状態を伴うν=0量子ホール強磁性(QHF)状態の実現を強く示唆する。本研究の目的は、①QHF相のより低温強磁場領域で安定性の確認と、②ヘリカルエッジ伝導物性の解明であった。 本年8月に米国Tallahasseeの国立強磁場研究所を共同利用することにより、高圧下層間伝導の実験を0.4K以下の低温、30T以上の強磁場領域まで拡張して、①のQHF相の安定性を調べた。その結果、QHF相のヘリカルエッジ状態が示す表面伝導による磁気抵抗の飽和傾向は低温強磁場領域でも変わらないことがわかった。これは理論とNMR実験によって期待されていた強磁場域でのQHF相から表面伝導のない量子Hall絶縁相への相転移の可能性を否定する結果であり、空間構造の発生を示すNMR実験の説明には、単純なQHF相ではなくスピンとバレー縮退によるSU(4)対称性破れの状態についての考察が必要であることを示唆している。 ②については結晶を割って電極間隔(エッジの長さ)と厚さは等しいが幅の異なる面内伝導用試料の対や、同心円状でエッジのないCorbino 型電極配置と通常電極配置の試料対を作製して面内伝導特性を比較することにより、エッジ伝導由来の効果を抽出した。コンダクタンスの値から、スピン反転散乱によりエッジは「乱れた1次元金属」的になっていること、特定磁場方位における面内抵抗の共鳴現象がエッジ伝導由来の効果であることを実証した。
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