研究領域 | 対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象 |
研究課題/領域番号 |
25103710
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
大村 彩子 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (60425569)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2015-03-31
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キーワード | 高圧固体物性 / トポロジカル絶縁体 / 超伝導 / 構造解析 |
研究概要 |
初年度はビスマス(Bi)系層状合金における圧力誘起超伝導および圧力誘起トポロジカル相転移の研究を遂行し、また並行して物性測定用ダイヤモンドアンビルセルの実験環境を整備した。 1) トポロジカル超伝導の候補物質であるCuyBi2Se3のSeサイトの10%をTeに置換したCu0.25Bi2(Te0.1Se0.9)3について低温高圧力下で電気抵抗測定を行い、10万気圧以上で超伝導に相当する抵抗率の急落を観測した。一方、Te10%置換の試料は常圧で超伝導を示さないが、Te1%置換のCu0.25Bi2(Te0.01Se0.99)3は常圧下で超伝導(Tc=2.9K)を示す。この組成は加圧すると一度超伝導を消失するが、Te10%置換の試料と同様に、10万気圧以上で再び超伝導が発現する。この点について本研究にて室温高圧力下X線回折を行ったところ、9万気圧付近から単斜晶系の高圧相が現れることが判明した。よって、本研究ではCu0.25Bi2(Te0.01Se0.99)3において10万気圧から発現する超伝導は高圧結晶相に起因すると結論付けた。 2) 3次元Rashba物質BiTeX(X=Br, I)では数万気圧でtrivialからtopologicalへ絶縁体状態に転移することが理論予測されている。本研究ではバルクの電子状態を評価するために、室温高圧力下で両物質の結晶構造解析を行った。得られた構造パラメータを用いて共同研究者とともに第一原理計算を行い、BiTeBrでは常圧結晶相の格子定数比が極値を示す3万気圧以上でトポロジカル相転移することを明らかにした。また、低温高圧下の電気抵抗測定からは同圧力以上で抵抗率の温度依存性が半導体的となることを見出した。 3) 初年度末に、数10万気圧まで容易に圧力発生が可能な物性測定用ダイヤモンドアンビルセルの実験環境を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題初年度の研究実施項目には次に示す4項目を計画していた:1)10GPa超級改良型ブリッジマンアンビルセルを用いた高圧力下の比熱測定法の整備、2)物性測定用ダイヤモンドアンビルセルの実験環境の整備、3) Bi2Te3(非化学量論組成Bi2-δTe3+δ, δ=0.25を含む)やBi2Te2Se、CuyBi2Se3系での超伝導探索とその特性の評価、4) BiTeX(X=Cl, Br, I)の圧力誘起トポロジカル相転移の探索。このうち、2)と4)は計画通りに進められている。2)については、初年度末に物性測定用ダイヤモンドアンビルセルを用いて30万気圧までの圧力領域で試験的に低温高圧下電気抵抗測定を行った。4)ではBiTeBrとBiTeIについて室温高圧力下の結晶構造解析を行い、トポロジカル相転移の評価で必要となる構造パラメータを得ることができ、共同研究者とともに行った第一原理計算から通常の絶縁体からトポロジカル状態へと相転移することを明らかにした。一方で、1)の高圧下比熱測定法の確立が遅れている。その点に関連して、3)では、各物質の圧力誘起超伝導の探索やその圧力効果は観測できたが、超伝導特性の評価がまだ十分とはいえず次年度の課題となっている。以上のことから、本課題研究は部分的に遅れた部分があるがおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究実績として、各Bi系層状合金において電気抵抗測定による圧力誘起超伝導の探索とその圧力効果の評価は概ね計画通りに進められている。しかし、Bi系層状合金の圧力誘起超伝導の多くは10万気圧前後から現れるために、超伝導の圧力効果を見るにはより広い圧力領域で測定が必要である。また、現在は電気抵抗測定による超伝導転移の観測に留まっており、超伝導特性の議論に足る十分な情報を得られているとはいえない。よって次年度は、初年度末に整備された物性測定用ダイヤモンドアンビルセルを用いてより高圧領域での超伝導探索を行う一方、試料サイズが比較的大きな10GPa超級改良型ブリッジマンアンビルセルを用いた低温高圧力下の比熱測定法を確立させ超伝導特性まで含めた議論を目指す。 Bi系トポロジカル絶縁体の超伝導はトポロジカル超伝導の可能性を含む点が非常に興味深く、その議論のためには超伝導に寄与する結晶構造を明らかにすることが必要不可欠である。また、BiTeX系の例のように結晶の対称性を保持したまま、trivialとtopological状態どちらも取り得るために、室温だけでなく超伝導相に近い低温領域での構造解析が必要となる。よって、次年度は本研究経費でガス駆動型ダイヤモンドアンビルセルを導入する。このセルを国内の放射光施設に設置されている冷凍機と組み合わせて低温高圧力下X線回折を行い、低温領域での結晶構造解析を進める。
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