本研究プロジェクトでは、超低温度における周波数分解MRI(MRSI)の測定技法を確立し、超流動ヘリウム3のテクスチャーの可視化を行うことにより、超流動ヘリウム3のテクスチャー内部に現れるトポロジカルオブジェクトについて研究を行った。厚さ100ミクロンの薄い平板形状の超流動ヘリウムが持つ均一テクスチャーとその中に偶発的に生成される準安定なドメインウォール等のトポロジカルオブジェクトからNMR信号を検出するためのサンプルセルを作成し、2mKに冷却した超流動ヘリウム3から、均一テクスチャーに対応する周波数シフトの空間分布を静磁場の十万分の一の精度でMRSI測定し可視化することに成功した。非線形NMR応答を示す超流動ヘリウム3からのMRSI測定の実施は世界初の快挙であり、これまで理論的モデルによる解析以外の手段を持たなかったテクスチャー研究に、始めて直接的測定手段を導入するというブレークスルーを果たしたことになる。その後、超流動転移温度を高速通過することによりトポロジカルオブジェクトを生成し、微弱なNMRサテライト信号が準安定に存在することから、準安定状態として長時間存在しうる事を確認した。さらに、MRSI測定によりそのサテライト信号を発生するオブジェクトが170μm角の空間分解能ぎりぎりの微小空間に局在していることを示した。この微小なサイズのため空間形状を知ることはできないが、存在を予想されていたセルサイズに展開したドメインウォールのようなオブジェクトではないものが生成していることを発見した。このオブジェクトの正体については、より空間分解能を高めた次世代の実験を行わねば同定困難ではあるが、技術的ブレークスルーにより、新しい物理の世界が広がったことを実証したと言えよう。
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