本研究は、アルキル鎖をDNA分子に結合させたDNA担持型両親媒性分子を用いて、それらの自己集合体の形態変化であるミセル‐ベシクル転移を誘導するDNA enzymeの分子システムを構築することを目的としている。この分子システムが構築されると、分子ロボティクスの「知能班」「感覚班」「アメーバ班」をひとつなぎにできる要素技術となり、当該領域に大きく貢献できる。さらに将来、情報分子のもつ配列のエントロピーがミセル‐ベシクル転移という物理現象を制御する新機軸の基礎研究をうみだすものと期待される。 本年度、DNAオリゴマーにRNA1塩基分を組み込んだDNA-RNAキメラを親水部としる新規両親媒性分子を、バッファーに分散させたときの分子集合体の構造形成およびその形態変化を光学顕微鏡下で観測した。マグネシウム(II)の存在下、40℃まで分散液を昇温すると、不可逆的に3次元のネットワーク状の構造体が現れることがわかった。これは、マグネシウム(II)と昇温という刺激が揃って初めて観察された。また、同配列で全てDNAの親水部をもつ両親媒性分子の分散液では、そのような現象が見出されず、同配列のすべてRNAの両親媒性分子の場合は、ネットワークまで形成しなかったが凝集体が分散液中に形成された。透過型電子顕微鏡やAFMでこの構造体を観察すると、数十nmの大きさの粒子がクラスター状に集合して、それがさらにネットワーク状に凝集するした階層構造が明らかになった。 これは、マイクロメートルサイズの分子集合体の形成という点では興味深く、これまで報告されているDNA担持型両親媒性分子の自己集合体(ナノメートルサイズ)や、DNAゲルという3次元網目構造体には分類できない、新奇の自己集合体への形態変化として考えられ興味深い。今後は、さらに本研究を発展させ、この構造体の形成機構およびベシクルへ形態変化し得る親水部の構造を設計・合成する。
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