公募研究
本申請課題では、リン脂質二重膜で被覆された光熱変換ナノ材料(cell-penetrating high-density lipoprotein (cpHDL)と金ナノロッド(AuNR)の複合体(cpHDL-AuNR))に、細胞毒性の比較的少ない近赤外光を用いて、熱による細胞膜融合という新しい細胞工学的手法を目指している。昨年度は蛍光プレートリーダーとFluorescence Resonance Energy Transfer (FRET)を用いた膜融合評価系、lipid mixing assay、を確立した。本系によると、100 nmリポソームに対してcpHDL単独でもやや膜融合が生じることが示唆された。2種類の蛍光色素(NBD-PEとRh-PE)を含むcpHDLを作製し、このcpHDLでAuNRを被覆した。A03班の濱田勉博士の研究室にて、giant unilamellar vesicle (GUV)と蛍光ラベルcpHDL-AuNRの光照射による膜融合をFRET解消を指標として評価したが、cpHDL-AuNRのGUVへの接着は観察されたものの、レーザー照射下で明確な膜融合(=NBD-PE蛍光増強)は観察されなかった。この理由として、濱田研のレーザー波長が1064 nmと金ナノロッドの近赤外ピーク波長(~800 nm)とあまり一致していなかったことが考えられた。そこで720-950 nmで波長可変の近赤外レーザー(現有機器)を用いて、AuNRにより適した波長のレーザーを照射下、蛍光画像撮影とNBD-PE蛍光強度定量を同時に可能にする顕微鏡システムを開発した。光路途中にExpanderを設置することにより、レーザースポット径を1細胞局所(数マイクロメートル)から細胞数個のレベルの間で調節することが可能である。今後この顕微鏡システムを用いて再検討すると共に、膜融合に有利に働くリン脂質を用いてcpHDL-AuNRを作製する。
2: おおむね順調に進展している
濱田勉博士との共同研究開始、膜融合活性評価系の立ち上げ、膜融合評価のための蛍光ラベルcpHDL-AuNRの作製、波長可変近赤外レーザー導入蛍光顕微鏡システムの構築など、目標達成に向けた研究環境が整った。
昨年度確立した近赤外レーザー導入蛍光顕微鏡システムを用いて、100 nmリポソームおよびGUVとcpHDL-AuNRの近赤外レーザー照射下でのlipid mixing assay(NBD-PE蛍光強度の時間変化追跡)を行う。一般に、曲率のより高い100 nmリポソームの方が、GUVよりも膜融合への感受性が高いとされている。さらにcpHDL単独と100 nmリポソームとの膜融合の効率がかなり低いことがわかったため、cpHDL作製条件を最適化する。具体的にはcpHDLの脂質を膜融合に有利に働くとされるフォスファチジルエタノールアミンやジアシルグリセロールなどに変更し、cpHDLのタンパク質のカチオン性を増強する(オリゴアルギニンの利用)。まずは100 nmリポソームを用い、その後GUVを用いて評価する。GUVとの膜融合活性が観察されれば、生細胞を用いて同様の実験を行う。さらに齊藤博英博士よりご提供頂いたsiRNA誘導体とcpHDL-AuNRを組み合わせ、RNAi効果の光制御の可能性を追求する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 7件) 備考 (1件)
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