生体活動を司る制御器の多くが,ある種の確率要素(ゆらぎ)を積極的に活用して巧みな制御を実現していることが知られている.このような確率制御器は,分子スケールのシステムにおいて自然に現れ,分子ロボットの実現のために必要不可欠なものとなっている.一方で,確率制御器は,「確率の影響を排除すること」を第一に考えてきた従来の制御工学の発想とは全く異なるものであり,その解析・設計には,従来の制御理論に立脚しつつ,全く新しい方法が必要とされる.本課題では,生体活動を司る制御器が生化学反応回路によって実現されていることに着目して,生化学反応回路で実現できる確率制御器のモデル化を行ない,その解析・設計手法を確立することを目指している.本年度は,初年度として本課題の基礎的となる以下の成果を得た. (1)大腸菌およびゾウリムシの走化性を司る確率的制御器の性能の解析を行った.特に, (τ,ε)-収束性と呼ばれる従来の評価指標に比べてより正確に性能を測れる指標として,「τ-収束性」を提案し,その解析を行った.本成果はIEEE Conference on Decision and Controlで発表した. (2)遺伝子ネットワークとして構成される制御器の構造的な安定性の解析を行い,8の字トポロジを有する場合の構造的安定性の必要十分条件を導出した.本成果はIEEE Conference on Decision and Controlで発表した.
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