分子ロボットを実現するためには、自律的に動作する膨大な数の分子デバイスを、自己組織化によりボトムアップに組み立てる必要がある。本研究では、分子デバイスを従来の計算機に対応させ、分散アルゴリズムの観点から分子ロボットを制御する手法の開発を目標とした。平成26年度の主な成果は以下の通りである。 (a) 個体群プロトコルモデルにおける緩自己安定リーダ選挙アルゴリズムの開発:個体群プロトコルモデルは、ランダムに移動するノード群が、衝突時に交流して状態を変化させる状況をモデル化しており、分子ロボットへの応用が期待できる。提案アルゴリズムは、ノード群が任意の状況から実行を開始しても、短時間でただ一つの代表ノード(リーダ)を選択し、それを十分に長い間維持することができる。これにより、任意の一時故障(不慮の状態変化など)に対する耐性をもつリーダ選挙を実現している。 (b) 自律分散ロボット群に対するアルゴリズムの開発:自律分散ロボット群とは、センサと移動機能をもつ複数のロボットで構成されるシステムである。本研究では、分子ロボットへの応用をふまえ、従来の研究よりも能力の弱いロボットを仮定してアルゴリズムの考察を行なった。具体的には、ロボットのセンシング範囲が限られる場合、初期配置に全く仮定をおけない場合の2つに対して、全ロボットを集合させるためのアルゴリズムを実現した。 (c) モバイルエージェントに対するアルゴリズムの開発:モバイルエージェントとは、計算機ネットワーク内を自律的に移動するソフトウェアのことである。モバイルエージェントは局所的な状況をもとにタスクを実行する必要があり、これは分子ロボットの動作と共通点がある。本研究では、モバイルエージェントがグループごとに協調するためのアルゴリズムを開発した。
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