ジャイアントリポソームに細胞骨格タンパク質等のタンパク質を作用させると、タンパク質が重合することにより、リポソームが膜突起形成などの変形を起こすことが知られている。この現象を工学的に応用することを目指し、本年度は、有限要素法を用いて、リポソーム内部に封入された、あるいは膜に張付いたタンパク質繊維の変形と脂質膜の変形を同時に数値的に計算する手法の開発に取り組み、部分的に成功した。この手法を用いてリポソーム内部に微小管を封入したときの膜変形の数値シミュレーションを行い、これまでに知られている回転対称変形に関する数値計算の結果と一致することを確かめた。次いで、リポソーム内部にアクチン繊維束を封入したときの繊維と膜の変形の数値シミュレーションを行った。その結果、アクチン繊維の長さが伸長した場合、アクチン繊維の弾性と膜の弾性の強さに応じて、リポソームがスプーン型に変形する場合と、赤血球状のリポソームの一部に突起の出る場合の2種類の形態が得られることが明らかになった。これら2種類のリポソームの形態は、実際に観察される形態と類似している。また、リポソームにタンパク質タリンを加えたときの変形に関しても数値シミュレーションを行い、これらの結果の一部を学会で発表した。 次に、分子ロボットとしての動きを展望し、ガラス表面に付着したリポソームについて、膜とガラス表面との接着エネルギーを仮定して有限要素法を用いた形状変化の数値シミュレーションを行った。リポソーム内部で微小管が伸長した場合の数値シミュレーションで、溶液中のリポソームとは変形の起こり方が定性的に異なることが示唆された。
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