研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
25104709
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻 直人 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90647752)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非平衡 / 強相関 / 動的平均場理論 |
研究概要 |
本年度は、(1)非平衡動的平均場理論をクラスター形式に拡張し、非局所的な空間揺らぎを取り込みながら強相関系の時間発展を計算する手法の提案を行ったこと、(2)非平衡動的平均場理論を反強磁性体、超伝導体、電子格子系、トポロジカル系へ応用すること、の主に二つのテーマに取り組んだ。 (1) 非平衡動的平均場理論は強相関系の実時間発展を計算できる有力な手法であるが、その限界は自己エネルギーを局所近似することにある。そこで我々は、自己エネルギーの非局所成分を取り込みながら非平衡状態を扱うことができる「非平衡動的クラスター理論」を提案した。これは、強相関系の格子モデルを有効媒質中のクラスターモデルに置き換えて自己無撞着に解く手法であり、近距離の相関効果がクラスターサイズの範囲内で取り込まれる。開発した非平衡動的クラスター理論を1次元と2次元のハバード模型に適用した。クラスターソルバーとしては、簡単のため反復摂動法を用いた。1次元系に対して数値的に厳密な時間依存密度行列繰り込み群の結果と比較することにより、クラスターサイズに収まる局所的な物理量に関しては十分に信頼できる結果が得られることがわかった。2次元系に適用することで、非局所揺らぎに起因した波数に依存した緩和ダイナミクスが現れることを明らかにした。 (2) 非平衡動的平均場理論の適用範囲を広げるために、様々な拡張を行った。反強磁性体に対しては副格子の自由度を、超伝導体に対しては南部ゴルコフ形式を、トポロジカル系に対しては複数のバンド自由度を取り入れた実装を行った。電子格子系については、反強磁性・超伝導・電荷秩序相を対等に扱うことができるようにし、特に秩序相として超伝導と電荷秩序が共存した超固体相が安定に存在することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通り、本年度は非平衡動的平均場理論がこれまで抱えていた限界である自己エネルギーの局所性を、提案された非平衡動的クラスター理論により原理的に解決することができた。これは非平衡強相関系を扱う理論手法として大きな前進と言え、目標であった自己エネルギーの非局所性が特に重要になる低次元強相関系への本格的な適用が見えてきた。計画されていたように、Eckstein (Hamburg大)、Barmetter (Geneva大)、Werner (Fribourg大)との共同研究も順調に進んでいる。また、新たにHerrmann (Fribourg大)との共同研究も始め、さらに本研究課題を強力に押し進める準備も整っている。
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今後の研究の推進方策 |
非平衡動的クラスター理論の形式的な部分は確立したが、その実装に当たって必要となるクラスターソルバーは反復摂動法という簡単な近似手法を使っている段階にとどまっている。相互作用が弱い領域ではこれでよいが、強相関系に適用する上ではより精度の高い数値手法に改良しなければならない。具体的には、弱結合摂動展開に基づいた連続時間量子モンテカルロ法をクラスター拡張して実装することが考えられる。また、ファリコフ・キンボール模型のようなクラスター問題が数値的に厳密に解けるような模型で、非平衡動的クラスター理論のベンチマークを行う方向も考えられる。 非平衡動的平均場理論の超伝導体への応用に関しては、これまで従来型のs波超伝導体を考えてきたが、d波などの異方的超伝導のダイナミクスについても興味が持たれるところである。異方的超伝導体では非局所的なゆらぎの効果が重要なので、開発中の非平衡動的クラスター理論を応用することができる。 電子格子系については、これまでの研究で平衡状態を秩序相まで含めて扱うことができるようになったので、今後は非平衡系への適用を目指す。ミグダル近似などを用いて、フォノンと電子の両者のダイナミクスを対等に扱える枠組みの確立を目指す。
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