近年グラフェンの応用が盛んに議論されているが、実用的にはなんらかの方法でバンド構造、特にバンドギャップを制御することが非常に重要となる。そこで前年度開発した、電子格子相互作用に起因する電子状態の変化を第一原理的に計算する手法を用いて、グラフェンにおける同位体を用いたバンド構造制御の可能性を調べた。その結果、電子格子相互作用によってグラフェンのバンド構造が数十meVのオーダーで変化することが分かった。これは、12Cのみでできたグラフェンと13Cのグラフェンでバンド構造が数meVのオーダーで変化することを示している。特に、グラフェンの仕事関数、すなわちDirac点の真空準位からの深さが12Cと13Cで異なることが分かった。これは、12Cと13Cからなるグラフェンの接合を作れば、自動的にpn接合ができることを意味している。また、12Cグラフェンと13Cグラフェンからなる2層グラフェンも興味深い電子状態を示すことが期待される。さらには、同位体を周期的に並べるだけでその周期を制御できればギャップを開けることができることを示した。 また、今後の物質設計に向けて、物質の表面構造に着目し結晶内部と表面でどのような構造の違いが現れるか、さらにはそれがどう物性に寄与するかを、テトラセンを例にとって調べた。その結果、テトラセンでは表面一層だけ結晶内部と大きく構造が異なることが実験的に観測され、理論的にも第一原理計算によって表面構造が大きく変化しうることが分かった。さらにはその構造変化が輸送特性に大きな違いをうむことを明らかにした。
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