研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
25104713
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大野 かおる 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (40185343)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 自己無撞着GW近似 / 全電子混合基底法 / 全エネルギー / 電子励起状態 / Li2クラスター / ハイブリッド並列 / FORTRAN90 |
研究概要 |
本研究では、自己無撞着GW法 (GW)を使って、N電子系の基底状態およびN±1電子系の励起状態の全エネルギーを計算するルーチンを我々のグループで開発を進めている全電子混合基底法のプログラム (TOMBO)に実装した。全電子混合基底法は原子軌道と平面波の二つの基底関数を使って準粒子波動関数を表現する手法であり、内殻の局在した電子状態から、価電子や非占有軌道の空間的に広がった電子状態まであらゆる電子状態を効率的に表現することができる他、孤立系から結晶までを統一的に扱えるプログラムになっている。これはFOROTRAN90を用いてMPIとOpenMPのハイブリッド並列がなされており、メモリ分散処理されているため、特にGW近似に関わる計算部分では並列機で高いスケーラビリティを示す。このプログラムを用いて、基底状態および第一励起状態におけるLi2クラスターの安定性について議論し、平衡位置におけるビリアル比も算出した。あわせて、DFT, HFAに基づく全エネルギーも計算し、GWとの比較を行った。励起状態の全エネルギーや相関エネルギーを計算するためには、GWによる基底状態の計算を一度実行するだけで十分である。平衡距離はLDAに対してHFAは長くなり、self-consistent GWはその中間である。ビリアル比はLDAに比べてHFA, self-consistent GWは理想値2に近い。一方、第1励起状態(電子数N±1)の全エネルギーから見積もられたLi2クラスターの平衡距離は明らかに基底状態に比べて長くなり、励起状態の特徴を表している。GW近似は長距離で重要となるリング図形の無限和を取り入れているので、ボンド長が長いvan der Waals領域で比較的正確なエネルギー曲線を予測する能力を持っていることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
one-shot GW近似による不均一電子系の全エネルギー計算はこれまでにも例があるが、Luttinger-Wardの相関エネルギー(Tr ln (1-Pv))の評価は複雑で、特殊な計算が必要であった。我々は、本年度、この相関エネルギーを求めるために、W. von der LindenとP. Horschにより提案されたプラズモンポールモデルを使った簡便な計算法を見出し、我々の全電子混合基底法に基づくTOMBOのプログラムに実装することに成功した。全電子混合基底法は平面波と原子軌道の両方を基底関数として用いるため、インプリメントは通常の平面波のみ、あるいは原子軌道のみを用いるプログラムよりも自ずと複雑となる。このプログラムに全エネルギー計算ルーチンをインプリメントできたことの意義は大きい。にこれにより、self-consistent GW近似のみならず、one-shot GW近似の計算においても全エネルギーを容易に計算できるようになった。また、プログラムは射影演算子の方法により膨大な数の非占有軌道についての和を回避することができるようにし、これにより計算効率を大幅にアップすることにも成功した。これらのことにより、self-consistent GW計算が現実的に可能となり、様々なボンド長を持つLi2クラスターの基底状態のみならず励起状態の全エネルギーの計算を行うことが出来た。これにより、最安定位置は勿論、それから外れた場合の全エネルギー曲線も描くことができ、ビリアル比の議論やvan der Waals領域での原子間相互作用の議論も可能となった。これは、予想以上の大きな進展であったと思う。これらの計算結果は近々学術論文として投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は(1)GW近似に基づいて電子励起状態における全エネルギーを原子位置座標で微分して得られる力の計算ルーチンを開発するとともに、(2)時間密度汎関数理論(TDDFT)の範囲内で非断熱過程を扱うことの出来るプログラムの開発を行う予定である。まず(1)については、次の方策をとる。GW近似における自己エネルギーの相間項Σ=iGWを原子核位置座標Rで微分する際、Bethe-Salpeter方程式におけるStrinati流の近似δW/δG~0を用いれば、∂Σ/∂R~i(∂G/∂R)Wから力を評価出来る。また、ハミルトニアンHの行列要素のうち、平面波(PW)と原子軌道(AO)で挟んだ<PW|H|AO>とその複素共役は、AOの原子中心位置Rにexp[-iG・R]の形で依存する(ここでGはPWの波数ベクトル)ことを考えれば、この行列要素の原子位置座標に関する微分は容易に計算できる。残りの寄与については既にプログラムにインプリメントされている。準粒子波動関数をPWとAOの展開で表す際の展開係数のR 微分(Pulay力)も扱わなければならないが、これについてもLDAの場合と同様に、次のように計算できる(▽は原子核位置Rに関する微分を表す): {(▽Ψ†)HΨ+Ψ†H(▽Ψ)}=ε{(▽Ψ†)SΨ+Ψ†S(▽Ψ)}=ε{▽(Ψ†SΨ)-Ψ†(▽S)Ψ}=-εΨ†(▽S)Ψ (※) ここでSはオーバラップ行列を表す。次に(2)については、TDDFTに基づいて1電子波動関数をスペクトル法で時間発展させる際に、原子位置座標が変化する項を1次近似で正確に扱うことで原子速度との結合項が生まれること、(※)のPulay力の計算で、t+Δtの時刻のAOとのオーバーラップ行列Sの評価で原子速度との結合項が生まれること、に注意して非断熱過程を扱えるTDDFTダイナミクス計算ルーチンをインプリメントする。
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