公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
物質にレーザー光のような非常に強い光が照射されると、光電場に非線形に応答する分極が観測される。この非線形光学応答特性に優れた材料は、超高速スイッチや大容量記憶装置等の光デバイスに利用される基盤物質として大変重要である。一方、現代の高度情報化社会を支える基盤物質の一つはシリコンであり、その微細化技術の進展により、ナノサイズのシリコンを合成できるようになってきた。その中でも半導体の超微粒子であるナノ結晶は、光学的・電気的・磁気的物性がサイズによって著しく変化し、分子や固体とは異なる挙動を示すため、新しい機能性材料として注目されている。本申請課題では、光応答メモリの実現に向けた基礎研究を行う。25年度は低次元周期系RSDFTおよびRS-CPMDのプログラム開発を行った。特に後者のRS-CPMDの研究開発に関しては、京コンピュータにおいてシリコン1000原子系のベンチマークを行い、1024CPU(8192 cores)を用いて、1ステップ2.5秒程度、64CPUに対して40%のストロングスケーリングを達成した。これらの低次元周期系RSDFTおよびRS-CPMDに関しては、現在、論文をまとめている所である。また、材料開発の観点の研究としては、光機能性材料の中でもフォトクロミック分子は2つの異性体間を光照射によって相互変換する分子群を研究した。多くのフォトクロミック分子の中でも、ジアリールエテン誘導体は他のフォトクロミック分子に比べて、両異性体の熱的安定性や繰り返し耐久性が著しく高いため、光電子デバイスへの展開に特に有利な化合物である。このジアリールエテンの光化学反応をスイッチとする非線形光学デバイスの提案を行い、Journal of Physical Chmistry Letter誌に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、光応答メモリの実現に向けた理論研究および解析手法開発に主眼をおいた研究を行っている。H25年度は主に解析手法開発に力点を置いており、低次元周期系実空間密度汎関数法および実空間密度汎関数法に基づくCar-Parrinello分子動力学法(RS-CPMD)のプログラム開発を行った。RS-CPMDの開発においては、京コンピュータにおいてシリコン1000原子系のベンチマークを行い、1024CPU(8192 cores)を用いて、1ステップ2.5秒程度、64CPUに対して40%のストロングスケーリングを達成した。一方で申請した研究以外にも、溶媒中の非線形光学応答特性を正しく見積もる方法の開発を行い、その成果はJournal of Computational Chemistry誌に掲載された。また、フォトクロミック反応を利用した光メモリ・スイッチの物質設計に関する研究を行い、その成果はJournal of Physical Chmistry Letter誌に掲載された。また、領域内の共同研究として横浜市立大学の立川教授と共に、核酸塩基対の陽電子親和力の共同研究を行い、その成果はChemPhysChem誌に掲載されている。また、大阪大学の鷹野助教とともに、タンパク質の折れ畳み等を効率的にサンプリングする手法開発の共同研究を行い、Journal of Chemical Physics誌に掲載が決まっている。以上のように、本申請課題の達成は言うに及ばず、領域内の共同研究を通して本新学術領域研究の推進に大きく寄与している。
近年、自己組織化によって並べられたシリコンナノ結晶を電荷保持ノードとした室温・低電圧動作する多値メモリデバイスの実現が期待されている。nmサイズの Si 量子ドットにおいては、荷電エネルギーに対応する量子準位が室温の熱エネルギーより大きいため、離散化した帯電状態となりうる。名古屋大学の宮崎らは、サイズ均一な Si 量子ドットを高密度で集積させ、ゲート電圧により Si 量子ドットへ注入する電荷量を数電子レベルで段階的に制御し、MOSFET のしきい値電圧を離散的にシフトさせることに成功している。従って、シリコン結晶へ電子や正孔を自在に注入する事が現実に可能となってきている。一方我々は、MONOS型メモリである窒化シリコンの欠陥構造への電荷注入・掃引がメモリ劣化の一因となりうるメカニズムを、第一原理計算により明らかにしてきた。本研究では、シリコン結晶の非線形光学応答量に関して、同様の考察を行う。26年度は、前年度において行った欠陥導入における光学応答量変化の知見を活かし、電荷やホールを注入する事によるシリコン結晶の非線形光学応答量変化のダイナミクスを明らかにする。つまり、シリコン結晶に電荷(正孔)注入直後は、中性状態の構造を保ったまま、電子数が異なる系での非線形光学応答特性を示す。その後、系が有限時間の寿命を伴って構造緩和した状態でその荷電状態での定常となる。さらに、その状態から電荷(正孔)を掃引すると、同様の過程を経て中性状態に戻る。高速光応答の実現の為には、構造緩和の緩和時間の知見を必要とする。特に25年度に開発した実空間密度汎関数法に基づくCar-Parrinello分子動力学法を用いて、電荷注入後の構造緩和と非線形光学応答特性の変化の実時間解析を行う。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)
Dalton Transactions
巻: 42 ページ: 16200-16208
DOI: 10.1039/c3dt51466h
巻: 42 ページ: 15053-15062
10.1039/C3DT51331A
ChemPhysChem
巻: 14 ページ: 3458-3462
10.1002/cphc.201300549
Journal of Computational Chemistry
巻: 34 ページ: 2345-2352
10.1002/jcc.23395
Chemical Physics Letters
巻: 585 ページ: 201-206
10.1016/j.cplett.2013.09.013
Journal of Physical Chemistry Letters
巻: 4 ページ: 2418-2422
10.1021/jz401228c.
Journal of Chemical Theory and Computation
巻: 9 ページ: 2974-2980
10.1021/ct4002653
巻: 4 ページ: 1592-1596
10.1021/jz400666h
International Journal of Quantum Chemistry
巻: 113 ページ: 585-591
10.1002/qua.24035
巻: 113 ページ: 592-598
10.1002/qua.24032
巻: 113 ページ: 252-256
10.1002/qua.24023
巻: 113 ページ: 605-611
10.1002/qua.24089
Journal of American Chemical Society
巻: 135 ページ: 1430-1437
10.1021/ja309599m
巻: 34 ページ: 21-26
10.1002/jcc.23100
Chemistry- A European Journal
巻: 19 ページ: 1677-1685
10.1002/chem.201203463