本研究では、次世代密度汎関数理論である(A)系依存密度汎関数理論(SDDFT)及び(B)軌道フリー密度汎関数理論(OFDFT)を開発することを目的としている。(A)DFTの問題点として対象とする系ごとに精度が異なることが指摘されきた。SDDFTは、系に依存する物理的条件を課すことで精度の高い結果を再現するDFTである。去年度から、SDDFTの高精度化を精力的に図ってきた。具体的には、(i)クーロン演算子を領域毎の分割、(ii)複数軌道の軌道の直線性条件(LCOE)からそれぞれの領域のHF交換項の割合の決定、を可能とするスキームを提案してきた。幾つかの分子で軌道エネルギーからイオン化ポテンシャルなどを見積もったところ、高精度に実験値を再現できることを確認してきた。さらに、励起状態への拡張を行ったところ、価電子励起状態・リドベルグ励起状態を高精度に記述できることがわかった。従来のOS汎関数と異なり、クーロン演算子を短距離・長距離領域のみならず中距離領域に分割することで、複数のLCOEを満たす汎関数の構築に成功し、高精度に励起状態を記述できた。以上の提案により、これまでDFTが記述困難な励起状態の記述に成功した。 (B)については去年度の議論を踏まえ、軌道密度を基底として記述される運動エネルギーに、密度汎関数として記述される運動エネルギーを組み合わせて高精度に記述するするスキームに関して考察・提案し、今後の高精度なOFDFTへ向けて進捗があった。
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