研究領域 | 実験と観測で解き明かす中性子星の核物質 |
研究課題/領域番号 |
25105503
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
萩野 浩一 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20335293)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 核融合反応 / 中性子星 / クーロン障壁 / トンネル現象 / 結合チャンネル効果 / 光学ポテンシャル / 障壁分布 / 乱雑行列 |
研究概要 |
中性子星内部で起こる核融合反応に関して、今年度前半は重イオン核融合反応に対する多核子移行過程の効果の研究を行った。核子移行過程の確率をクーロン障壁の位置で見積もることにより、核子移行過程に伴うクーロン障壁の動的な変化を取り入れて重イオン核融合反応の断面積を計算する方法を開発した。この方法を 40Ca+96Zr 反応及び 32S+96Zr 反応に適用し、現象論的なパラメーターを一つのみ導入することにより、クーロン障壁近傍のエネルギーでの重イオン核融合反応断面積の再現に成功するとともに、これらの反応系において多核子移行過程が重要な役割を果たしていることを明らかにした。この方法は、結合チャンネル法を用いた既存のコンピューター・コードに容易に取り込むことができるものであり、今後さらに研究を進め他の系でも方法の有用性が明らかになれば、世界中の研究グループに広く使われることが期待できる。また、今年度後半は連星中性子星からのX線スーパーバーストで重要となる 12C+12C 系の核融合反応の研究を行った。特にクーロン障壁より高いエネルギー領域における核融合反応断面積の振動現象を解析し、同種粒子系に対する全波動関数の(反)対称化の効果及び最外殻核子の弾性的移行過程の効果により12C+12C, 12C+13C, 13C+13C 系に見られる核融合断面積の振動を統一的に理解できることを明らかにした。この成果は現在投稿論文を準備中であり、また、2013年10月にイタリアで行われたワークショップで口頭発表を行った。さらに、クーロン障壁より低いエネルギーにおける12C+12C 系の核融合反応の研究も進めており、核融合反応で生成される複合核の準位密度の観点から核融合反応断面積のエネルギー依存性が理解できそうであるという予備的な結論を得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、クーロン障壁近傍のエネルギー領域における重イオン核融合反応に対する多核子移行過程に関する研究及び 12C+12C 系の核融合反応の研究を計画していた。両者とも論文発表にはまだ至っていないが、主要な部分の研究は大体終了しており、当初計画していた研究目標は大方達成したと判断している。ただし、後者の課題に関しては、連星中性子星からのX線スーパーバーストで重要になる極低エネルギー領域における研究はまだ端緒についたばかりであり、来年度以降も継続して研究を進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2013年10月にイタリアで行われた 12C 核と天体核反応に関する国際ワークショップに出席し、同ワークショップに参加していた Neil Rowley パリ南大学名誉教授及び Xiaodong Tang ノートルダム大学助教と中性子星における原子核反応に関する議論を行った。その結果、中性子星のX線源を理解するためには、実験データがすでに存在し、また、X線スーパーバーストで重要となる 12C+12C 系の極低エネルギー領域における核融合反応をはじめに理解した上で、クラスト深部で起こるピクノ核融合反応を理解することが重要であるという結論に達した。これを踏まえて、2014年度は12C+12C 系の核融合反応を中心に研究を進めていく。特に、12C+12C, 12C+13C, 13C+13C系における核融合反応断面積の違いが生成される複合核の準位密度の違いに起因するものなのか、反応中の原子核の励起を考慮した結合チャンネル計算を通じて検討を進める。2013年度に励起の効果を無視した予備的な研究を始めており、2014年度はそれを結合チャンネル計算に拡張する。
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