研究概要 |
本研究の目的は, 陽子と中性子の数が極端にアンバランスな「エキゾチック原子核の質量」を高精度で測定することである。とくに中性子が過剰な原子核を対象としている。中性子星を理解するためには, 原子核の状態方程式EOSの決定が不可欠であり, エキゾチック核の質量はEOSを決定するための“鍵”である。しかし, エキゾチック核の質量測定はこれまで困難であった。そこで我々は, 寿命の短いエキゾチック核の質量を精密に測定するための, 重イオン蓄積リング『稀少RIリング』を発明し, 理研RIビームファクトリーに建設している。これにより, これまで測定困難だったエキゾチック核の質量を高精度(10の-6乗)で測定することが可能となる。 本研究では蓄積リングにビーム入射する際, より効率的に特定のエキゾチック核を選択する新しい仕組みを開発する。通常, RIビームは磁気剛性とエネルギー減衰を利用して分離されるが, ウランの核分裂の場合十分でない。78Niの場合, 10の6乗倍以上も他の核種が混合する。そこで従来の選別法に加えて, チェレンコフ光による速度選択法を導入する。チェレンコフ光の放出角度は, 粒子の速度βとラジエータの屈折率nで決まる。バックグランド粒子の速度は78Niに比べて速いためチェレンコフ光の放出角度は大きくなり, 最終的にはラジエータ中で全反射し外部には出てこない。78Niから発生するチェレンコフ光のみ検出し, 蓄積リングに入射する仕組みに応用すれば, より効率的に質量測定ができる。 H25年度はプロトタイプ検出器を試作し, 放射線医学総合研究所の重イオンビーム(56Fe, 84Kr)を用いてビーム試験を行った。その結果, 10の-3乗という速度分解能を達成することが出来た。この性能は稀少RIを選択的にトリガーするための要請を満たしている。
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