連星中性子星合体は地上型重力波干渉計の最も有望な重力波源の一つであり、2018年頃に本格化する重力波観測では年間約10回の合体イベントが観測されると見積もられている。 連星中性子星合体からの重力波が観測された場合、一般相対論の検証といった基礎物理学の根幹にかかわる問題やショートガンマ線バーストの中心動力源解明といった宇宙物理学最大の未解決問題の解決に留まらず、中性子星物質の真の状態方程式、宇宙における鉄より重いR過程重元素の起源といった原子核物理分野における重要な問いに答えを与える可能性がある。 このような背景の下、本申請課題では連星中性子星合体と磁場をキーワードに研究を行った。主な結果は以下の通りである。 (1)超大質量中性子星のモデル化:近年における連星中性子星合体の理解が急速に進んだことより、合体後には高温・高速回転中性子星が過渡的に存在することが分かってきた。この星からは観測可能な振幅をもった重力波が放出される。また、星の振動モードは中性子星物質の状態方程式に強く依存する為、重力波は状態方程式を探る探査針と成り得る。しかし、高温・高速回転中性子星の系統的なモデル化はあまり進んでいないのが現状であった。そこで、本研究課題ではカリフォルニア工科大学の研究グループと協力することで高温・高速回転中性子星の系統的なモデル化を行った。 (2)連星中性子星合体時の磁場増幅:磁場は中性子星の普遍的な特徴の一つであるが、連星合体の過程における磁場の役割は未解明であった。そこで、高解像度数値相対論-磁気流体シミュレーションを実行することで、合体時の星の接触面で生じるケルビン―ヘルムホールツ不安定性が磁場を有意に増幅することを明確にした。この研究によりマグネター磁場を超える磁場強度が実現される可能性が高くなり、原子核状態方程式の磁場による変更など新たな研究課題の創生が期待される。
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