本研究の目的は、原子核物質の状態方程式の対称エネルギー項の密度依存性を飽和密度付近において調べることにある。対称エネルギーは中性子星の性質、特に核子間相互作用による圧力、質量半径相関、中性子陽子密度比を決める鍵として注目されている。 申請者らがこれまでに開発してきた陽子非弾性散乱の手法を用い、中重安定核の電気双極応答を精密に測定した。得られた電気双極応答から双極分極率およびピグミー双極共鳴強度を引き出し、対称エネルギーの値に強い制限を与える。原子核表面にできる中性子の層である中性子スキンを用いることが着目点の1つである。 本年度はスズ120核を標的とするデータの解析を完了し、ピグミー双極共鳴の励起強度総量を定量的に引き出すことに成功した。これまでガンマ線で測られていた強度は実際に存在する強度のごく一部であるという画期的な成果を得た。結果を論文にまとめてPhysics Letters B誌に投稿し掲載された。また、スズ120核の双極分極率を引き出し、理論モデルの妥当性を検証するとともに、中性子スキン半径を0.148±0.034 fmと求めた。対称エネルギーの密度依存性を決定する上で鍵となるデータである。結果を論文にまとめPhysical Review Letters誌に投稿した。現在審査中である。 またNuclear Symmetry Energy 2014会議、SOTANCP会議、νIST会議などの国際会議招待講演、ワークショップ、研究会において成果を発表し、世界の物理研究者と結果および今後の計画に関する議論を深めた。 平行してsd殻核のスピンM1励起強度に関する論文をまとめ、Physical Review Letters誌に投稿した。昨年度Physical Review C誌に投稿した鉛208核の状態密度に関する論文が掲載された。
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