当初の研究計画に沿って、以下の検討を実施した。(1)ヒドリド源を活用した求核的な活性種の発生については、コバルトヒドリド種を活用することで活性な求核種をスチレン誘導体から得る手法を確立していた。26年度にはピンサー型の触媒を活用することで、触媒量の低減化に成功した。(2)また、高原子価のコバルト触媒を活用した反応系については、これまでのイミンへの付加反応に加えて、ホスホラミド化およびベンズアミドの酸化的アルケニル化などへの適用についても検討し、問題無く反応が進行することを確認した。(3)さらに、触媒構造のうち、これまでほとんど検討してこなかったシクロペンタジエン部について、修飾を施した触媒について系統的な検討を進めた。その結果、あまりにも立体障害要因を小さくしてしまった場合には、触媒の安定性が大きく低下し、触媒活性が失われることがわかった。一方で、ごくわずかに立体障害要因を減らすことで、活性が向上し、安定性もキープできることが判明した。これはさらに高い触媒活性、反応回転数を実現するための極めて重要な知見であると考えている。以上のように、過去2年間の検討を通じて、各種金属錯体を設計、開発し、これによる炭素-水素結合の活性化とそこからの求核的な活性種を生み出す手法を開拓することに成功した。特に、種々検討を進めた中で、コバルト錯体を利用した反応系については、独自性が高く、まだまだ応用範囲の広がる余地が大きいものであると評価している。実際、2015年になって、他の研究グループが我々の開拓した触媒系を模倣するようになっており、インパクトのある成果であったことを支持している。
|