研究実績の概要 |
同じ領域の岩澤教授のグループで見出されたパラジウム触媒による2-ヒドロキシスチレンのアルケニルC-H結合のCO2による直接カルボキシル化反応について反応機構の解明を行った。本反応はグリーンケミストリーの観点から極めて興味深い反応であり、反応機構が明らかになればさらなる発展が期待される。本研究では岩澤教授との共同研究として行った。岩澤教授らは触媒を1当量用いることにより中間体を得ているが、それ自身ではCO2と反応せず、中間体錯体が触媒として機能することを実験で明らかにした。計算はDFT法 (B3LYP/6-31G*:Pd,Cs:lanl2dz)を用いて行い、まず中間体錯体の生成機構を調べた。Pd(OAc)2のアセテート基1つが基質カルボン酸と置き換わった錯体から出発して、アルケン部分との配位錯体の形成、電子移動を経てアセテートによるプロトンの引き抜き、酢酸の脱離と基質のCs塩が配位することで中間体が生成することが分かった。反応の活性化エネルギーはいずれも低く容易に起こる反応である。次に中間体錯体とCO2の反応の遷移状態を計算した所、活性化エネルギーは28.2 kcal/molとやや高いが100℃で起こりうる反応であった。触媒サイクルが回るためには安定生成物であるラクトンへの変換と同時に触媒の再生、つまり中間体の再生が必要である。そのためには46.2 kcal/mol と極めて高い活性化エネルギーが必要であることが分かった。ところが、この過程で、Cs2CO3と基質が存在していれば、つまり、通常の触媒反応の条件ではプロトン引き抜きの活性化エネルギーは19.8 kcal/molと大幅に低下することが分かった。この研究結果については、現在、岩澤教授と論文執筆について打ち合わせを行っているところである。
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