研究概要 |
前年度までに配位飽和型ルテニム錯体RUPCYを用いて「不活性」アミド一般に適用可能な選択的水素化に成功したが,比較的過酷な水素化条件を必要とした(PH2 = 4-8 MPa, T = 140-160 °C).「分子性の触媒表面 “H-Ru-N-H”」の不活性アミドの水素化における重要性が一部示唆されたが,Ru錯体の二座配位子を二つもつ構造と一つはずれた構造のいずれが触媒的に重要であるかが不明であった.そこで,二座配位子をもつRUPCYから四座配位子をもつRUPCY2への改変を行った.その結果,RUPCY2およびその誘導体RUPIP2を用いることで,温和な条件下でも,より過酷な条件下でも(PH2 = 0.5-8 MPa, T = 80-180 °C)水素化触媒として働くことを見いだした.「分子性の触媒表面」の,他の均一系触媒や不均一系触媒にはみられない大きな特徴だといえる. PH2 = 1 MPa, T = 110 °Cが標準的な水素化反応条件である.この条件下で数々の不活性アミドの水素化は問題なく進行するが,より短時間で反応を完結させるために,PH2 = 2-4 MPa, T = 120-140 °C程度の条件が,汎用性が高い.適用できる基質の一般性を大幅に高めることができた.RUPCY (2 mol %)を用いた場合,全く水素化できなかったかさ高いアミドにおいてもRUPIP2 (1 mol %)を用いて同様の条件下(PH2 = 8 MPa, T = 160 °C)で水素化を達成した.初期的ではあるが,高官能基化され,より複雑な構造をもつアミドであるジペプチドおよび市販のアミド系高分子の水素化も達成している.より頑健な触媒前駆体構造へのさらなる改変を行えば不活性アミドの水素化にとって,より高活性な究極の「分子性の触媒表面」に近づいていくと思われる.
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