近年、多くのグループによる精力的な研究により、不活性なC-H結合の切断を伴う官能基化反応は、単純な原料から複雑な化合物への直接的な変換を可能とする原子効率に優れた有用な手段となりつつある。当研究室でもパラジウム触媒を用いたC(sp3)-H活性化を利用した分子変換反応について種々検討し、これまでにカルバミン酸クロリドをパラジウム触媒で処理することでC(sp3)-H活性化を鍵として種々のオキシインドールを合成することに成功している。そして、本反応を利用してヒガンバナ科の植物より単離構造決定された四環性アルカロイドであるassoanineとその類縁体を全合成している。確立した合成経路は、全てのC-C結合をC-H官能基化で形成し、保護基を用いないため、短工程となっている。一方、本オキシインドール合成法をパラジウム触媒によるC(sp3)-H官能基化を経由した多環ヘテロ環合成へと展開し、簡便かつ一般性の高いインドロキナゾリノン骨格構築法も開発している。 平成26年度はこれら知見を踏まえてインドロキナゾリンジオンのone-pot合成法の基質適用範囲を検討した。インドロキナゾリノンおよびインドロキナゾリンジオン骨格はtryptanthrin類などの天然物や医薬品に見られる含窒素複素環骨格であり、抗炎症作用等様々な薬理活性を示すことが知られている。 また、多環性天然物の合成に展開が期待できるテトラヒドロ-2H-フルオレン骨格合成法について検討した。テトラヒドロ-2H-フルオレン骨格はaethioside類などの天然物にみられる骨格である。パラジウム触媒によるベンジル位C(sp3)-H官能基化を利用してエノールトリフラートの環化反応により本骨格を効率的に構築する方法を開発した。今後、本反応を鍵として、テトラヒドロ-2H-フルオレン骨格を有する天然物の合成へと発展する予定である。
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