研究実績の概要 |
本年度は,昨年度に引き続き,柔軟なエチレングリコール鎖をもつ含窒素複素環カルベン配位子を活用する触媒反応開発を進めた.その結果,この配位子がパラジウム触媒を用いる塩化アリール類の宮浦ホウ素化反応に有効に機能することを見出した.この反応は鎖が短い配位子ではほとんど反応が進行しないことから,エチレングリコール鎖が創り出す大きな反応空間が極めて重要であることを明らかにした. 一方で,配位子を使い分けることにより生成物の選択的合成が可能となる反応開発に主眼を置いた研究も平行して進めた.その結果,1,2-ジエン(アレン)を基質とした銅触媒によるシラカルボキシル化反応を検討したところ,1つの基質から異なる2つの生成物がそれぞれ選択的に得られるカルボキシル化反応を見出した.1,1-2置換アレン(1)を基質,ケイ素源として PhMe2Si-B(pin),銅触媒前駆体として酢酸銅1水和物を用いて配位子の検討を行ったところ,かさ高い2座配位子であるrac-Me-DuPhosを用いた反応ではビニルシラン構造をもつカルボン酸(2)とアリルシラン構造をもつカルボン酸(3)の混合物が72%の収率で得られた.このとき,2がほぼ選択的に得られる結果となった.一方で,単座配位子であるトリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)では,3が優先して得られる結果となった.この条件を元に種々検討した結果,銅の前駆体をCuCl/NaOAcに変更し,溶媒としてTHFを用いたとき3が高収率かつ高選択的に得られることが分かった.
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