研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
25105734
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神戸 宣明 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60144432)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 多成分反応 / 触媒反応 / 不活性結合切断 / 共役ジエン |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでのフッ化アルキルを反応基質とするクロスカップリング反応の知見をもとに、遷移金属触媒反応の反応基質としての利用が進展していない炭素―フッ素結合の様な低反応性結合の切断を伴った炭素―炭素結合形成反応の開発を目指し検討を行った。研究を推進するにあたり、安価な第一遷移金属の利用、一段階で複数の炭素―炭素結合を形成し得る多成分反応の開発を指標とした。 その結果、銅触媒およびニッケル触媒による活性化されていないフッ化アルキルをアルキル化剤とする共役ジエンのアルキル化反応を見出した。銅触媒による反応では、銅触媒とアルキルグリニャール試薬とを事前に50℃で撹拌し、触媒活性種を調製することにより、これまでに見出していたフッ化アルキルとグリニャール試薬とのクロスカップリング反応が抑制され、ブタジエンのヒドロアルキル化反応が選択的に進行することを見出した。興味深いことに、フッ化アルキル由来のアルキル基はブタジエンの内部炭素に導入される。これは、従来のハロゲン化アルキルを用いる共役ジエンのアルキル化反応では末端炭素選択的にアルキル基が導入されることと異なる選択性である。 一方、ニッケル触媒とアリールグリニャール試薬を用いるとブタジエンの酸化的二量化反応を伴い、3位にフッ化アルキル由来のアルキル基が、8位にグリニャール試薬由来のアリール基が導入された1,6-オクタジエンが選択的に得られることを明らかにした。本反応では、フッ化アルキルとアリールグリニャール試薬との直接カップリング反応が同時に進行するものの、電子吸引基をアリールグリニャール試薬に導入することにより、4成分カップリング生成物の選択性を向上出来ることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性化されていないフッ化アルキルを反応基質とするクロスカップリング型反応は、我々の先駆的な研究例を含めても今なお僅かな例が知られるのみである。これは、炭素―フッ素結合が有機化合物中最も強固な単結合である為に、その切断が困難なことに起因する。一方、我々は遷移金属錯体とグリニャール試薬およびπ炭素配位子から調製可能なアニオン性遷移金属錯体を鍵活性種として用いることにより、炭素―フッ素結合を温和な条件下切断可能であることを報告している。本触媒系では対カチオンであるマグネシウムがルイス酸として炭素―フッ素結合を活性化することが重要であると考えられる。本研究では、本概念を更に発展させ、フッ化アルキルをアルキル化剤とする多成分反応の開発を行い、ニッケルおよび銅触媒による共役ジエンのアルキル化反応を達成した。いずれの反応においてもフッ化アルキルをアルキル化剤として用いることによる特徴的な位置選択性で多成分反応生成物が得られることを明らかにした。すなわち、従来のより反応性の高いハロゲン化アルキルをアルキル化剤とする共役ジエンのアルキル化反応では、ハロゲン化アルキルから生じるアルキルラジカルの共役ジエンへの付加過程を含むため、結果として生じるアリルラジカルの安定性を反映し、共役ジエンの末端炭素のアルキル化反応が進行する。一方、今回見出したフッ化アルキルの反応ではアルキルラジカルの生成を伴わない為、従来法とは異なり、共役ジエンの内部炭素が選択的にアルキル化される特徴を有する。本成果は、適切な反応設計により従来利用が困難と考えられてきたフッ化アルキルの合成化学的利用法を提案するに留まらず、フッ化アルキルに特徴的な位置選択性を見出した点で、フッ化アルキルを反応基質とする有機合成手法の新たな設計指針を与えるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
フッ化アルキルの炭素―フッ素結合の切断を経る共役ジエンおよびグリニャール試薬との多成分反応を更に推進するため、反応機構解明に向けた取り組みを行う。具体的には、炭素―フッ素結合の切断過程に関する知見を得るため、律速段階の決定、反応の活性化パラメーターの算出および鍵中間体の単離同定を目指す。また、ニッケル触媒系に関しては、クロスカップリング反応と4成分反応との選択性の向上を目指し、反応条件の最適化を推進する。 また、炭素―フッ素結合の切断反応の有機合成化学的利用をさらに拡張する為に、フッ化アルキル以外の含フッ素求電子剤の探索を実施する。具体的には、フッ化アルキルを用いる反応において炭素―フッ素結合の切断過程が求核置換型の反応機構で進行することを基に、芳香族求電子置換反応に活性を示すポリフルオロアレーン類の利用を検討する。すなわち、入手容易な含フッ素芳香族化合物であるヘキサフルオロベンゼンおよびその誘導体とブタジエン、グリニャール試薬との多成分反応を銅触媒およびニッケル触媒を用いて検討し、25年度に見出した様式の反応においてアルキル基の代わりにパーフルオロアリール基が導入される新様式の反応開発を目指す。この様なパーフルオロアレーン類を反応基質とする反応は、クロスカップリング型の2成分反応が数例知られているが、多成分反応はこれまでに報告例がなく、新規なパーフルオロアレーンの合成反応に成り得ると期待出来る。
|