従来、位置選択的にC-H結合を活性化するために、金属に配位するヘテロ原子(Lewis塩基)をもつ配向基(directing group)を使い、配位不飽和な遷移金属活性種を目的のC-H結合に近づける手法が主に用いられてきた。我々は2010年に、ケイ素-水素結合の活性化を利用する新しいシラフルオレンの合成を報告した。この反応も元に研究を進め、本年は以下の結果を得た。 (1) ジベンゾゲルモールの合成: 以前にシラビフルオレンをSi-H結合活性化に誘発されたC-H結合活性化で合成していたが、ケイ素と同族のゲルマニウムを用いて反応をおこなうと、ジベンゾゲルモールが得られることを見いだした。本研究については、結果をまとめ論文として報告した。 (2) sp3炭素-水素結合の活性化: レニウム触媒を用いると、窒素のα位のsp3炭素-水素結合の活性化が進行し、α位でのホウ素化反応がおこなえることを見いだした。この反応は、基質特異性はあるものの、末端だけではなく内部炭素のC-H結合でも進行することがわかった。本研究についても論文として報告した。 (3) ナフタレンやピレンなどの多環芳香族化合物のC-H結合を、直接に活性化し、ケイ素化する反応を見いだした。本反応にはイリジウム触媒とビピリジル型配位子が有効であることがわかった。この反応の特徴を検討するとともに、5員環と7員環が融着したアズレンへの応用も検討し、それぞれ論文として報告した。 (4) フェロセン骨格とベンゾシロールの融着した化合物を、S-H結合を起点とするC-H結合活性化反応により合成した。本研究については、日本化学会第95春季年会で一部を報告し、論文として投稿している。
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