公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
多数の計算機を相互接続した分散システム上において動作するアルゴリズム(分散アルゴリズム)の設計においては,非同期性,局所性,故障耐性など特有の因子が関わってくる.このような因子の存在は分散計算の理論における独自の理論的課題を生みだし,その複雑性に関する研究が今に至るまで精力的に続けられている。本研究では,特に,集中型計算の理論において発展してきた計算量理論の諸概念を分散計算の理論に適用し,その計算複雑性探求の深化と新たな知見を得ることを目指して研究を行ってきた.本年度は,分散計算における大域的問題と呼ばれるクラスの問題群に対しての計算時間の上下界の検討を行った.このクラスにおける多くの問題は2者間通信複雑性理論を用いて計算時間下界を導出することがポピュラーな手法であり,本研究においても同様の手法の深化を目指し研究を行った.また,導出された下界に対応する上界,すなわち最適なアルゴリズムの設計を目指し研究を行った.具体的には,最小生成木構成問題,生成木検証問題,重み付きグラフにおける全点対最短経路問題等について検討を行い,いくつかの新たな結果を得た.その他,以下のような関連する研究について結果を得た:(1)分散並列計算の新たなモデルの一つであるMapReduce計算の理論モデルについて,その能力を従来のPRAM型計算機との関連から検討を行った.(2)ネットワークの平均次数推定問題について,メッセージ効率の良い手法の検討を行った.(3)無記憶自律分散ロボット群の乱択一点集合問題に対する時間計算量の検討を行い,ロボットの観測能力と時間計算量の間の関係を明らかにした.
3: やや遅れている
25年度については,主に年度後半で得られた成果が多く,現状論文としてまとめている状況ではあるが,まだ刊行されていないものも多い.一部については現在国際会議に投稿中ではあるが,その採否に関してはまだ未定である.また,本研究で得られていた研究結果の一つについて,他の研究グループが同様の結果を先行発表してしまい,(論文刊行という形では)期待された成果を得ることが出来なかったという点も理由として挙げられる.
前述の通り,まずは25年度中に得られた結果について,早急に論文の形でまとめ,刊行することが必要である.26年度前半はまず同作業を中心に行い,それとともに研究内容のさらなる推進を目指す.具体的には,以下の3テーマについて検討を行っていく.(1)通信複雑性を用いた下界導出手法の深化を目指し,特に全点対最短経路問題の一般化である距離オラクル問題への検討を行う.また,同分野における大きな未解決問題の一つである,完全結合ネットワークにおける超定数の計算時間下界を持つ問題の構成についても検討を行う.(2)分散計算と限定されたメモリ領域を用いるアルゴリズムとの間の関係について検討を行っていく.局所的な情報を用いる分散アルゴリズムはある種の低深さ回路と見なすことが出来るため,その計算を集中型計算機で模倣することで,限定されたメモリ領域を用いたアルゴリズムの構成ができる可能性がある.この方向性に基づいたアルゴリズム設計のアプローチを研究する.(3)動的なネットワーク上における諸問題の理論的側面を検討する.実世界における分散システムは,ネットワークの構成が時々刻々と変化するのが常である.理論的にはそのようなシステムはある種の動的変化を有するグラフとしてモデル化される.本研究では動的なグラフにおける各種の基本問題に対して計算量的な側面からアプローチする.また,動的グラフにおける,問題の困難性を定量化するパラメータの探求を検討していく.
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
電子情報通信学会コンピュテーション研究会
巻: IEICE-COMP2013-69 ページ: 61-68
IEEE Transactions on Parallel and Distributed Systems
巻: Vol.24, No.4 ページ: 716-723
doi.ieeecomputersociety.org/10.1109/TPDS.2012.212
Proceedings of the 15th International Symposium on Stabilization, Safety, and Security of Distributed Systems
巻: Vol. 8255 of LNCS ページ: 367-369
10.1007/978-3-319-03089-0_32
巻: IEICE-COMP2013-40 ページ: 15-20
巻: IEICE-COMP2013-17 ページ: 143-147