前年度は、黒潮/親潮混合域の東部域(東経150度以東)に着目し、その大気海洋間熱交換は海面水温により決まることを発見した。そして、この東部混合域の海洋構造は、黒潮続流から北に分岐した流れ(黒潮分岐流)の出現に伴う黒潮系水(高温/高塩水)の輸送により決定されることがわかった。 そこで、本年度は、人工衛星海面高度計資料を用い、黒潮分岐流出現条件の解明を目指した。本流である黒潮続流流との関係に着目した結果、黒潮続流が北偏する時ほど黒潮分岐流が明確になり、逆に黒潮続流南偏期には黒潮分岐流はほとんど観察されないことがわかった。加えて、続流北偏期には、黒潮続流は東経158度・北緯34度付近の水深が浅い海域(Shatzky Rise:周囲より3000m以上浅い)を通過することがわかった。それゆえに、流量保存の観点で、黒潮続流北偏期に続流が水深の浅い海域を通ることでその通過輸送量に制限が生じ、結果として余剰流量が黒潮分岐流として出現するというシナリオを提案した。上記シナリオを確立するためには、今後、海洋2層モデル実験等での定量的な検証が必要である。 上述のように、黒潮続流流路はその位置や形態を変えることで、広範囲の海洋構造に影響する。従来、この黒潮続流流路は、人工衛星観測資料をもとに同定されてきた。しかしながら、この方法では利用可能なデータ長が制限され、長期的なふるまいを解明することは困難であった。そこで、本研究課題では、海面水温データによる黒潮続流流路推定の新手法の確立を試みた。その結果、従来の時系列を10年以上延長することに成功した。そして、長期時系列により、黒潮続流は、約15年周期でその位置を南北に変え、流路形態は約10年周期で変わることがわかった。本成果は、10年規模の気候変動機構解明に資する知見である。 一連の成果は国際学会等で広く公表し、本年度は3編の論文が国際誌に掲載された。
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