研究領域 | 気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 |
研究課題/領域番号 |
25106703
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳瀬 亘 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (80376540)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 気象学 / 低気圧 / ポーラーロウ |
研究概要 |
冬季高緯度の海洋上で発達する小低気圧「ポーラーロウ」の統計的な理解を深めるため、大気データからポーラーロウを自動検出するアルゴリズム(トラッキング手法)の開発に取り組んだ。使用する大気データに関しては、従来よりもモデル性能が向上したJRA-55再解析データが2013年に公開されたため、その気圧や風の場を用いて低気圧の検出を試みた。台風や温帯低気圧よりも弱く小さな低気圧であるポーラーロウを検出するために、様々なスケールの空間フィルタを試し、ポーラーロウを取り出せる波長幅を決定した。また、低気圧の追跡に関しては、6時間ごとの解析値だけではなく、3時間ごとの予報値を組み合わせて用いることにより、低気圧の移動をより正確に求められることも確認できた。このトラッキング手法で検出された様々な種類の低気圧の中から、ポーラーロウの特徴を持つものだけを絞り込むアルゴリズムを現在開発中である。なお、これらの開発に際しては、大西洋のポーラーロウのトラッキング手法に精通した、イギリスのK.Hodges博士、およびドイツのM.Zahn博士らと議論し、多くの有用な助言を得ることができた。 トラッキング手法を用いて再解析データから検出されたポーラーロウが、現実の事例と対応しているかどうかを確認するため、気象衛星観測の雲画像との比較を行った。気象衛星センターが2003年まで作成していた雲解析情報図には、雲画像から求められた小低気圧の詳細な位置が記録されているので、これをまとめて比較用のデータベースを作成した。また、近年の高精度な気象衛星観測を利用して低気圧の研究を行っているロシアのL.Mitnik博士とI.Gurvich博士の協力を得て、2003年以降のポーラーロウの情報も得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低気圧のトラッキングの開発には3段階あり、1つ目は各時刻の大気データから低気圧を検出すること、2つ目は検出された低気圧の経路を求めること、3つ目は低気圧の種類を判別することである。この内、最初の2つはポーラーロウが小さな低気圧であることによる困難を伴うが、この点は概ね解決することができた。3つ目の低気圧の判別に関しては、幾つかの方法を試みており最適なアルゴリズムを開発中である。 トラッキングのアルゴリズムを検証するための気象衛星観測のデータに関しては、比較するのに十分な事例数を得ることができた。また、トラッキング手法の開発や衛星観測データの収集に際して、海外の研究者から十分な情報を得ることができた。 これらの内容は本課題の応募時の研究計画に概ね沿って進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の前半は、ポーラーロウのトラッキング手法開発の最終調整を行う。特に、ポーラーロウと他の種類の低気圧を判別するためのアルゴリズムを決定する。 トラッキング手法が完成したら、JRA-55再解析データに適用してポーラーロウの統計データを作成する。このデータの妥当性を検証するため、前年度に得られた気象衛星観測によるポーラーロウのデータとの比較を行う。 この統計データを用いて、ポーラーロウが発達する季節や海域の分布を求める。また、ポーラーロウが発達しやすい大気・海洋の条件を把握するため、対流圏下層と上層の大気場、冬季モンスーン、海面水温などを調べる。 これらの成果を今年度の後半に論文としてまとめ、学術誌に投稿する予定である。
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