研究領域 | 気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動 |
研究課題/領域番号 |
25106708
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
和田 章義 気象庁気象研究所, 台風研究部, 主任研究官 (20354475)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 中緯度台風 / 中緯度大気擾乱 / データ同化 / 大気環境場 / 海洋環境場 / 台風海洋相互作用 / 非静力学大気波浪海洋結合モデル |
研究概要 |
大気や海洋の初期場の解析に含まれる誤差が台風や大気擾乱の予測に与える影響を評価するために、異なる海洋初期値の元で、2009年台風第14号(Choi-wan)のアンサンブル実験を、水平解像度6kmの非静力学大気波浪海洋結合モデルにより実施した。2週間程度の期間における海洋環境場の変化が台風中心気圧の予測に与える影響は成熟期でもっとも大きく、10hPa程度であった。海洋環境場の変化が軸対称平均した台風構造に与える影響を調べた結果、台風の発達段階によって異なることが明らかとなった。発達期においては非傾度風バランスが卓越する大気境界層上端及びインフロー先端域、成熟期においては眼の壁雲付近で温度傾度が大きくなる領域、そして衰退期もしくは温帯低気圧移行期においては、大気境界層下層のインフロージェット域において、海洋環境場の変化の影響は大きく現れた。非静力学大気波浪海洋結合モデルを予測モデルとしたNHM-LETKFを開発し、2008年台風第13号(Sinlaku)の事例に適用した結果、台風域における海水温低下と、それによる台風の強化抑制が解析された。LETKFを導入した局地気象予測モデル(海洋非結合モデル:NHM-LETKF)と、黒潮続流域集中観測期間の観測データを用いて客観解析を実施し、水平解像度15km相当の客観解析データを作成した。本データについては、新学術研究グループに公開した。また水平解像度15kmのNHM-LETKFを用いて、Choi-wanのデータ同化実験を実施した。水平解像度が相対的に粗いこともあり、気象庁ベストトラックで解析されたChoi-wanの急発達については過小評価となった。 一方で、成熟期から衰退期における強度解析はベストトラックと整合的な結果となった。この傾向はSinlakuの事例と共通していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海洋環境場が中緯度台風の予測に与える影響については、査読付き論文として発表することができた。本論文において、台風の発達ステージに応じて台風と海洋の相互作用のメカニズムが異なることを発見することができたことは、台風強度予測の不確実性を軽減し、台風強度予報の精度向上を目指すという点で、重要な知見を得たことになる。またLETKFを導入した局地気象予測モデルを用いて、2012年度計画研究により実施された黒潮続流域集中観測データを同化した大気客観解析データを作成し、プロジェクト参加者にオープンにしたことは、当初の計画に沿った成果である。さらに同データ同化システムを用いた台風予測に関する研究についても、順調に行われている。非静力学大気波浪海洋結合モデルを用いたデータ同化システムの構築についても、ゆるやかではあるが進展している。さらに社会的にインパクトのあった2013年台風第18号(ManYi)及び第30号(Haiyan)について、その予測可能性を研究するために数値シミュレーションを実施し始めた。以上の経過を鑑みて、研究成果及び研究テーマともに充実した状況にあることから、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
計画は順調に進展していることから、今後はこれまでに着目していない大気環境場が、大気海洋相互作用を通じて台風予測に与える影響について研究を進めたい。2009年台風第14号(Choi-wan)の事例について、LETKFを導入した局地気象予測モデル(NHM-LETKF)による大気解析結果を初期値・側面境界値とした数値シミュレーションを非静力学大気波浪海洋結合モデルにより実施し、数値シミュレーション結果から、初期値及び側面境界に含まれる大気場の不確実性が台風予測に与える影響を評価することを計画している。またデータ同化研究を引き続き実施する。黒潮続流及び日本周辺海域における集中観測データや黒潮続流域に設置された定置ブイ(KEOブイ)データ等をNHM-LETKFと組み合わせることにより 、データ同化実験実施するとともに、データ同化実験を通じて、観測データが台風解析に与える影響について評価する。 さらに、数値モデルに組み込まれている雲物理過程、境界層、大気海洋境界過程といった物理過程に内在する不確定要素が台風及び大気擾乱のシミュレーションに及ぼす影響を評価するため、非静力学大気波浪海洋結合モデルによる数値シミュレーション及び感度実験を実施する。台風事例については、2009年台風第14号(Choi-wan)の事例以外にも複数事例(2013年台風第18号(Man-Yi)や第30号(Haiyan)等)を取り上げる。また大気擾乱についても適宜、数値実験を実施する。 以上の成果については国内・国際学会等で発表し、議論を重ねた上でとりまとめ、査読付き学術雑誌に投稿する。
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