公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
高生物生産力である西部北太平洋亜寒帯域は、冬季の二酸化炭素放出量の減少により冬季混合層の酸性化が懸念されている。本研究は、大気海洋間二酸化炭素交換量の経年変化を基に、酸性化を捉えることを目的とし、今年度は以下のことについて、実施した。1.時系列自動採水器による係留型時系列観測の実施 : 冬季混合層内の変動を詳細に捉えるため、海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」MR13-04航海において、時系列観測点K2に設置するセジメントトラップを搭載した係留系に、冬季混合層内の約100mへ時系列自動採水器とCTD・酸素センサーを搭載した。2.亜寒帯循環域の冬季混合層内の二酸化炭素放出の経年変化と酸性化 : 1997年から2013年の温度極小層から推定した冬季混合層のpHは、-0.001/yrの速度で酸性化が進行していた。この酸性化速度はハワイ沖の時系列観測点や北西太平洋亜熱帯域よりも遅い。これは、冬季混合層中の溶存無機炭素の増加に加え、アルカリ度の増加による冬季二酸化炭素放出の低下が原因であることを示した。また、酸性化に影響を与える他の変動要因について調べるため、混合層内の炭素循環の季節変動から正味の群集基礎生産量を見積り、ハワイ沖の時系列観測点よりも倍以上大きいことを示した。3.西部亜寒帯域の物理場データの整備 : 衛星海面高度計データおよびGEM法を用いて推定したこの海域の水温・塩分・密度・地衡流速の3次元データを整備し、推定値の精度評価を行い、信頼性を検討した。その結果、西部亜寒帯循環は、カムチャツカ半島の東に局所的な副循環を形成したため、最近10年で顕著に弱化していることが分かった。これは、温度極小層を深化させ、冬季二酸化炭素放出の低下の原因である溶存無機炭素とアルカリ度の増加に寄与している可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
時系列自動採水器による係留型時系列観測を実施した点、冬季混合層の酸性化の結果について論文受理された点、西部亜寒帯循環が最近10年で顕著に弱化した結果について投稿した点から、区分2に該当すると判断出来る。
・2014年6月に回収される時系列自動採水器の試料の分析を進めると同時に、温度極小層の安定性とその層から推定した冬季CO2/pH計算法の妥当性を評価する。・2014年までのデータを基に、酸性化に影響を与える他の要因の経年変化を調べ、生物生産と炭酸カルシウム生成への影響を求める。・前年度に算出した二酸化炭素フラックス、西部北太平洋亜寒帯循環の流量・密度躍層深度(冬季混合層深度)、海上風について、互いの時系列を比較して時間位相関係について評価し、西部北太平洋亜寒帯循環域の二酸化炭素フラックスの経年変化を支配する要因を特定する。・得られた西部北太平洋亜寒帯循環域の密度場と流量の時系列を基に、太平洋十年規模振動等の大規模大気海洋変動による海上風等の変動が西部北太平洋亜寒帯循環および混合層の厚さの変動に及ぼす影響について、再解析データ等を用いて統計的に調べる。さらに、以上の結果について、学会や論文で公表を進める。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
Biogeosciences
巻: 10 ページ: 7817-7827
10.5194/bg-10-7817-2013
Nature Climate change
巻: 3 ページ: 843-847
10.1038/nclimate1937.
http://www.atmos.rcast.u-tokyo.ac.jp/hotspot/jpn/selected2/a01_k4.html
http://www.jamstec.go.jp/res/ress/mwakita/index.html