研究領域 | 人工光合成による太陽光エネルギーの物質変換:実用化に向けての異分野融合 |
研究課題/領域番号 |
25107509
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
若狭 雅信 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40202410)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピン化学 / 金属錯体 / 高磁場 / 光化学 |
研究概要 |
(1)新型パルスマグネットの開発:本研究の最も重要な特色は,金属錯体励起状態の複雑な電子構造を研究するために, 超強磁場を用いる点にある。例えば,電子スピンに50 Tの超強磁場を印加すると,Zeeman分裂によりエネルギー差 50 cm-1で分裂する。よって,金属錯体励起状態のスピン副準位を完全に分離させることができる。そこで,現有のパルスマグネット(23 T)より強磁場を発生できる新型パルスマグネットの開発を行った。室温ボアサイズ20mmの新しいパルスマグネットを作成し,2500V印加で30Tを発生できるようになり,磁場強度3割アップに成功した。 (2)極低温高分解リン光スペクトル測定装置の開発:パルスマグネットの開発と同時に,現有の高分解分光器(焦点距離100 cm),および新規に作製する光学用液体Heデュアーを用いて,金属錯体の極低温高分解リン光スペクトルを測定できる装置の開発を行った。まず,分光器の自動走引システムを構築し,波長分解能 0.02 nm,エネルギー分解能 0.8 cm-1でスペクトルを測定できるようになった。併せて,液体ヘリウム温度でスペクトルを測定するための石英デュアーを阪大ガラス工場に依頼して作成した。 (3)時間分解ESR測定:トリアリールホウ素置換金属錯体による光還元反応の反応中間体と励起状態の性質を調べるために,種々の条件下で時間分解ESR測定を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画どおり,低い印加電圧で磁場強度が3割高い新型パルスマグネットの開発に成功した。また,現有の長焦点分光器を改良し,波長分解能 0.02 nmで容易にスペクトルを測定できるシステムを完成させた。一方,世界的なヘリウムの供給不足で液体ヘリウムの購入が甚だ困難であったが,H25年度は装置開発が主題であったので特に問題にはならなかった。しかし,H26年度は液体ヘリウム温度での実験を計画しているので,研究遂行に不安がある。さらに,当初計画にない,トリアリールホウ素置換金属錯体による光還元反応の時間分解ESR測定を実施し,複雑な反応機構の解明に有用な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
(1)超強磁場極低温発光観測装置の開発:H25年度に開発した新型パルスマグネットおをび5T超伝導マグネットと,極低温高分解リン光スペクトル測定装置を組み合わせて,超強磁場極低温条件で発光スペクトルを測定できる装置を完成させる。それを用いて,レニウム(I) ビピリジン錯体([Re(bpy) (CO)3L]n+)(L: P(OEt)3, Cl, NCSなど)およびルテニウム(II)トリスビピリジン錯体([Ru(ppy)3]2+)の高分解発光スペクトルの磁場による変化を磁場強度を変えて測定する。さらに単結晶を用いたスペクトル測定に挑戦する。これにより,金属錯体の電子状態解明のための知見を得る。 (2)トリアリールホウ素置換金属錯体による光還元反応の時間分解ESR測定:犠牲試薬や電子受容体を共存させて時間分解ESRを測定する。トリアリールホウ素置換金属錯体は励起状態の寿命は適当だが,励起状態のスピン分極の寿命は短く,一方で励起状態の反応性が低いので,時間分解ESRが比較的難しい。そこで,低温もしくは77Kでの時間分解ESRを試みる。
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