研究領域 | 人工光合成による太陽光エネルギーの物質変換:実用化に向けての異分野融合 |
研究課題/領域番号 |
25107523
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加藤 隆二 日本大学, 工学部, 教授 (60204509)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光触媒 / 過渡吸収分光 / 近赤外分光 / 吸着状態 |
研究概要 |
本研究では光触媒反応の反応機構を決定する因子を解明するために、(1)レーザー分光計測による電子・正孔の生成効率や再結合時間の評価、(2)高感度分光技術を駆使した触媒表面に吸着した分子の挙動、の課題について取り組んでいる。 (1)の課題については、種々の光触媒材料において、マイクロ波を用いた非接触光伝導度評価法を確立した。この技術はパルスレーザーによって光触媒中に発生する電子と正孔をマイクロ波電場で動かすことで、電荷の動きの抵抗ロス、つまり電気伝導度を評価する手法である。これまで多くの研究ではフィルム状の試料を用いていたが、多くの光触媒材料が粉状の試料であることに留意し、粉状試料において高い感度で計測できる測定技術を確立した。そしてまず、物性・反応活性が詳しく調べられている市販の酸化チタン光触媒材料10種類について系統的な評価を行った。特に信号強度の励起光密度依存性に注目して解析を行った。その結果、信号の大きさ、時間発展挙動は光触媒ごとに非常に大きく異なっており、本手法が光触媒中の電荷の挙動の特徴をとらえる技術として非常に優れていることが分かった。さらに光触媒活性との相関についても検討を進めている。 さらに東京理科大、東北大との班内共同研究を推進し、それらのグループで新たに合成された新しい硫化物光触媒についても予備的な測定を行った。信号の挙動は試料の作製方法にも大きく依存しており、本手法の有効性を示すことができた。 (2)の課題については近赤外波長領域での高感度吸収分光計の構築を行った。光源や光学系を最適化することにより、吸光度として0.0001の信号をとらえることができるようになった。近赤外波長領域には分子の振動の倍音や結合音に起因する信号が得られるため、吸着分子の吸着構造に関する詳細な情報が得られると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)の課題「レーザー分光計測による電子・正孔の生成効率や再結合時間の評価」については、これまで膜状試料で計測を行ってきたが、多くの光触媒材料が粉状であるため、粉状の試料での計測に最適化した測定技術を確立した。それにより、プロジェクトグループ内で新しく開発された種々の高機能光触媒の評価に対応できるようになった。すでに東京理科大学と東北大学の研究グループとの共同研究を開始し、有意義な結果を得ることができている。今後、さらに多くの新材料の評価に生かしていくことができると思っている。 また得られる信号から得られる情報を増やすためには物性や構造がよくわかっている試料での計測が欠かせない。そこで市販の標準的な酸化チタンにおける系統的な計測を行い、マイクロ波伝導度法によって得られる信号と光触媒反応活性との相関について注意深く調べている。 (2)の課題「高感度分光技術を駆使した触媒表面に吸着した分子の挙動」については平成25年度には基本的な高感度吸収分光計を構築することができた。これは可視光領域(400-800 nm)だけではなく、近赤外領域(800-1600 nm)での測定も可能な装置としてあり、光触媒材料表面に吸着した分子の振動スペクトル情報を得ることが可能である。光源の選定や光学部品の最適化を行い、計測・データ処理のアルゴリズムを改良することで、現在溶液の吸収スペクトル計測において吸光度0.0001を計測が可能となった。この計測精度は光変調分光を行う上で十分な性能であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度、(1)の課題「レーザー分光計測による電子・正孔の生成効率や再結合時間の評価」については、市販の標準的な酸化チタンにおけるマイクロ波光伝導度計測を行い、伝導度信号と光触媒活性についての相関を明らかにする。また、各試料の取り扱い、特に加熱処理の効果について検討を行い、光触媒材料の機能をより効果的に発現させる手法を探索する。加熱処理によってナノ微粒子間の接着が進行する可能性や、表面への様々な分子の吸着量を制御できる可能性があり、構造評価とあわせて機能発現の機構について考察をすすめたい。 平成25年度より進めている、東京理科大と東北大との共同研究をさらにすすめ、新しい硫化物系光触媒の反応初期過程について詳細な検討を行う。とくに試料の作製法との相関を調べることで、高性能光触媒の作製技術確立へ向けた研究を展開する。これらの光触媒材料が光励起により発光することがわかってきており、発光の解析の面からも機能評価を行う予定である。 現在のプロジェクト内の共同研究に加え、他の研究グループとの共同研究の可能性を広げていく。班会議等で意見交換を深め、本手法を適用できる対象を広げたい。特に有機系材料を用いた光触媒や、光電気化学反応系を研究しているグループとの共同研究の可能性を探る。 また、(2)の課題「高感度分光技術を駆使した触媒表面に吸着した分子の挙動」については平成25年度に確立した高感度吸収分光計を基盤として光励起変調分光装置へと開発を進める。紫外線LEDを励起源に用いて各種光触媒において光によって生成する反応中間体を検出する。さらに近赤外領域に現れる吸着分子による振動バンドの検出に挑戦し、光反応によって吸着種が反応する様子の検出を目指す。
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