本研究では、局所的な秩序が生成・消滅を繰り返す動的液晶場を構築し、それを用いて環境負荷の小さな高画質表示機能および固形がんに対する抗腫瘍活性機能を創成することを目指した。 動的液晶場の分子設計:テーパー型の三量体液晶を合成し、それが層秩序の揺らぎを持つモジュレーテッドスメクチック相を発現した。相発現の駆動力がダイポール―ダイポール相互作用によるインターカレテッド構造とパッキングエントロピーに由来するモノレイヤー構造の競合であることを明らかにした。隣接する分子の掉尾の相互作用が相構造の安定化に寄与していると考えられる。 表示媒体の開発:高分子安定化手法を用いアモルファスブルーIII相の温度幅を50K以上に拡大した。室温で電圧―透過率曲線にヒステリシスが無く、高速な電界応答が得られること実証した。 液晶性化合物による抗腫瘍効果の発現:一級アルコールを持つ安息香酸エステル誘導体を合成し、固形がんである非小細胞肺がん細胞株A549の増殖抑制に及ぼす効果を調べた。構造―物性相関から抗腫瘍効果の発現には、分子の疎水性、約150 nmの粒径を持つ集合体の形成能およびサーモトロピック液晶発現に特徴的な分子間相互作用が重要であることがわかった。 アキラル液晶による自発的対称性の破れ:フェニルピリミジン基をフレキシブルスペーサーでつないだアキラル三量体液晶の二成分等モル混合系において逆の旋光性を持つ2つのドメインからなるヘリカルナノフィラメント相(B4相)が発現した。X線回折の結果から2つの三量体が会合して超分子ベント型構造を形成し、それがスメクチック層の変形をもたらし、B4相発現の駆動力となったと考えている。
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