公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
我々のグループでは無機材料のもつ美しい構造を転写した「鋳型ナノカーボン」を得る鋳型炭素化法を世界に先駆けて発展させてきた。また派生技術として、無機材料をグラフェンシート僅か1~10層分程度で均一にコートする「炭素ナノ被覆」を開発し、コアとなる無機材料の特徴を損なうこと無く炭素材料の利点である高耐食性、導電性などの特性を付与した複合材料の調製に成功している。そこで本研究課題では、炭素ナノ被覆を含む鋳型炭素化法を異分野の材料(および調製法)と有機的に結び付け、従来に無い機能をもつナノカーボン融合マテリアルの調製を目指している。平成25年度は、炭素ナノ被覆した材料のリチウムイオン電池(LIB)への応用および、常温・低温プロセスによるナノカーボン融合マテリアル調製について検討を行った。プラズマCVDにより得られるSiナノ粒子はカーボンブラックのような数珠繋がりの連結構造を持つためLIBの負極材料として高い性能を示す。またこれを均一に炭素ナノ被覆すると、充放電サイクル中にSiと炭素がナノレベルで混合した「融合構造」となり、高性能を発揮することがわかっている。一方、実用材料として期待される機械粉砕により調製したSiナノ粒子は連結構造が無いため充放電に伴う劣化が激しい。そこで、粉砕Siナノ粒子凝集体を炭素ナノ被覆することにより、Siナノ粒子同士を炭素ナノ層で連結した複合材料を調製したところ、被覆前のSiナノ粒子に比べて極めて高いレート特性とサイクル特性を発揮することを見出した。本系においても、サイクル中に高性能な「融合構造」が発現しているものと考えられる。常温・低温プロセスによるナノカーボン融合マテリアル調製については、氷晶を鋳型とすることで酸化グラフェンからなるハニカム構造体の作製に取り組んだ。水分散性黒鉛粉末を用いたプロトタイプは調製には成功している。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定として、炭素ナノ被覆した材料の調製と機能開拓、常温・低温プロセスによるナノカーボン融合マテリアル調製を計画していた。これら2つの検討事項については、概ね予定通りに進行している。さらに、領域内の共同研究として、岡山大学の高口グループと鋳型ナノカーボンの有機修飾による新規融合マテリアルの調製を検討した。ゼオライトを鋳型として合成されるゼオライト鋳型炭素は、活性炭の約10倍以上のエッジ面を持つため、大量の官能基を導入できる。そこで、エッジ面の臭素化を行い、さらに臭素をカルバゾール基に変換した。このような方法を用いれば、炭素の骨格を持ちながら、高分子のように大量の官能基を有する新しい融合マテリアルを調製することができる。既におよそ狙い通りの材料が合成できており、次年度には機能発現の検討を行う予定である。また、有機金属錯体やイオン液体など従来は炭素源としてあまり利用されてこなかった有機物からの新しいカーボン材料の合成や無機ナノ粒子、生物の作るバイオミネラルを鋳型にした新規カーボン材料に関する共同研究も進めている。このように、当初の計画以上の成果が得られている。
炭素ナノ被覆した粉砕Siナノ粒子のLIB応用への研究をより一層実用化に近いレベルまで進める。Siナノ粒子は充放電に伴う構造変化が激しく、従来は劣化が速過ぎて使い物にはならなかった。しかし我々はこれを炭素ナノ被覆することで構造変化の進行を大幅に遅延させることに成功した。興味深いのは、炭素被覆したSiナノ粒子は充放電中に構造変化して粒子形状が完全に失われ、炭素とSiがナノレベルで均一に混合した「融合状態」に変化する点である。この「融合状態」が保たれている間は高性能が維持される。粉砕Siナノ粒子を実用化するには、この「融合状態」を人為的にコントロールする必要がある。そのためには、初期のSiナノ粒子の構造(粒径、凝集状態)、炭素被覆の状態(被覆方法、炭素の量、結晶性、均一性、膜厚)、並びにバインダーによる粒子同士の結着状態の全てを最適化する必要がある。そこで今後はこれらの検討を行い、「融合状態」形成のメカニズムを明らかにするとともに、この構造を長期間に渡って維持する電極構造の実現に取り組む。常温・低温プロセスによるナノカーボン融合マテリアル調製については、樹木組織ミミックの調製にはすでに成功しているので、樹木組織を超える機能の発現を目指す。導電性付与、細孔の貫通性を生かしたフィルター等への応用、柔軟性を生かした開口径制御などに取り組む。領域内共同研究による新規融合マテリアル調製についても検討を進める。既に結果の得られているゼオライト鋳型炭素の有機修飾を初め、炭素ナノ被覆や新規炭素源の利用による新しいカーボン材料の開発および機能開拓を進める。
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