本研究では,自己組織化を使って構築した多成分金属錯体を基軸に,その階層的クラスター化を通じた磁場配向物性の制御を達成し,NMRによるRDC立体構造解析の新手法を開発することを目的とした.分子設計に立脚した磁場配向性制御の構想は,国内外の研究に照らして新しい着眼点である.本研究では,疎水性の芳香族分子を多数集積している多成分金属錯体の表面を,親水性の置換基で化学修飾し,水溶性の向上をはかった.この錯体を濃度制御下で階層的に自己組織化させて,分子間スタック数が制御された錯体クラスターを形成した.核磁気共鳴を使い,錯体クラスターの大きさに応じた磁場配向の発現を確認できた.さらに,この金属錯体は,タンパク質と相互作用し,一緒に溶かしたタンパク質に磁場配向を伝達することを見いだした.本研究成果は,原著論文としてまとめて発表予定である. また,段階的に自発的な秩序形成が進行する,階層的な自己組織化という現象を中空錯体骨格そのものの構築に活用することに着目した.有機配位子と遷移金属イオンとの自己組織化によって得られる多成分金属錯体は,有機配位子上に追加の配位部位があれば,異種の遷移金属イオンを組みこむことが原理的には可能であるが,一段階での自己組織化を使った場合には,複数種の遷移金属イオンが競合して有機配位子に配位するために,設計通りの錯体を得ることが困難である.本研究では,配位子の合理設計を通じて,一段階目のPd2+イオンとの自己組織化で遊離の配位部位を有する錯体骨格を構築し,二段階目のAg+イオンとの自己組織化で錯体骨格にAg+イオンを組みこむことに成功した.この多成分からなる異種金属錯体の合成については,2013年,原著論文として報告した.
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